人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サークル閉鎖。
by 鯨
スロー・ラーナー

スロー・ラーナー (ちくま文庫)

トマス ピンチョン / 筑摩書房


 アメリカの2人の謎の大作家のうち、サリンジャーは他界した。これはもう1人の謎の大作家トマス・ピンチョンの短編集である。やはり秀逸はピンチョン自らが書いた序「スロー・ラーナー」である。謎の作家が書いた、青年時代の作品を中年になって読んでみた感想だ。
あなたはすでにご存知かもしれない、何によらず二十年前に書いたもの――たとえ用の済んだ小切手に書いてある自分の文字でも――を読まなければならないということはエゴにとってどんな打撃になりうるかを。

これを含む最初の段落を読んでピンチョンの人柄に触れたようになる。さて、当の短編だけれど、これらは感想を書く種類のものではなく、ただ作品を読むものだと考える。読んでいくうちに言語化以前の何かが読者の中に形成される、その形成を、或いはその形成の結果である内なる感情を楽しむ類の作家だと思う。「小雨」は読んでいてヘミングウェイ的な、「武器よさらば」的な物憂さが形成していった。その結果として、なんとなくアメリカの中西部を旅したくなった。
by suikageiju | 2010-01-31 20:05 | 感想
<< コミティア91 第十回文学フリマ申込完了 >>