人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サークル閉鎖。
by 鯨
薬指の標本

薬指の標本 SPECIAL EDITION [DVD]

ハピネット・ピクチャーズ


 フランス映画。原題はL'annulaire(薬指)。ちなみにフランス語で薬指を意味するannulaireは指輪anneauから来ているから、薬指はフランス風に言うと「指輪指」といったところか。原作は小川洋子の『薬指の標本』。原作の舞台は日本だが、映画では舞台をフランスに移している。
 レモネード工場で薬指の先を失った若い女イリスは、仕事を探しに港までやってきた。宿を借り、職を探してぶらぶらする彼女が見つけたのは標本作製の手伝いの仕事だった。そのラボはどこか奇妙で不可思議で、博物館のようで、それでいて何かを秘めているような無気味さを持っている。陰影のある表情の標本技術士も、常にイリスの背後で彼女を観察している。標本の依頼人は自分の記憶から遠ざけたい品物をラボに持ってきて標本にしてもらう。そうすることで記憶を標本に封印する。女性は標本技術士から靴をプレゼントされ、それを毎日履くように指示される。そしてだんだんと靴が足を浸食しはじめる。齢を重ねない標本技術士との地下室での密会、不思議な少年の視線、顔の火傷痕の標本を頼んだ少女の失踪、古い標本の収められた棚、色彩が薄れていく少女の写真、中国の宇宙哲学である麻雀。そしてイリスは薬指の標本を依頼する、靴を脱いで。
 鯨は今までの自分の作品で、固定されたものを流動させ固体を融解して液化させようとしてきた。この映画は時間や記憶や音楽など固体でないものの固化を主題にしている。年老うもの、変わり続けるもの、移ろい流れる人の心、そんなものをいつまでも止めて置きたくて。自由にはなりたくなくて。
by suikageiju | 2010-03-20 17:50 | 感想
<< コみケッとスペシャル5 in 水戸 夢の記述 >>