これは奇談集である。それゆえに諧謔は少ない。ただ奇談であるがゆえに、多島海世界を生きるギリシア人たちの息遣いを感じることができる。ソクラテスもディオゲネスもプラトンもアリストテレスもアレクサンドロスもテミストクレスもレオニダスもペリクレスもエパメイノンダスもこの奇談集では一登場人物として登場する。この奇談集を流れる空気の味わいは『アナバシス』の味わいと同じである。橄欖と葡萄酒と毒人参の味わい。ちなみにクセノポンもこの『ギリシア奇談集』に美しい武具が好きな人物として登場する。特に気に入ったのは「領民に会話を禁じた僭主の話」で、鯨はこれの末尾に創作を加えて短い物語をつくった。