人気ブログランキング | 話題のタグを見る

サークル閉鎖。
by 鯨
書架にねむる。
 象印社による図書館と図書室についてのアンソロジーだという。図書館は貧乏人が自然と足を向ける場所である。それは朝に図書館へ行くと浮浪者がたくさん椅子で寝ていることからもお分かりいただけるだろう。ライトノベルや現代音楽が金持ちの娯楽なのに対し、古典文学とクラシック音楽が貧乏人の娯楽なのは、後者が図書館にて無料で手に入るからだ。図書館は貧乏人の楽園である。中学高校時代の放課後、友人が「吉野屋行こうぜ!」「マック行くか!」と言っても鯨には「いや、行かないよ」と返すしかなかった。理由は簡単である、そんなところへ食べに行くお金が無かったからだ。なので、周囲を見回して奢ってくれるような先輩がいなければそのまま自宅に向かった。でもすぐに家に帰るのをもったいなく思う夕方もある。空腹を抱えながらお金のない鯨が行けるのは公立図書館くらいのようなものだった。そこで鯨は図書館の閉館時間まで日本と世界の主要な文学作品を読破し、世界のすみずみで起こった歴史的事件を知り、トルコ語を習得し、哲学の基礎を抑え、錬金術について研究し、女性の体の神秘と画家達の奇行とチェス・プレイヤーの発想に唸った。青春期における図書館との関わりが深かったからだろうか、大学一年生のときに図書館司書課程を履修したが、一年でやめた。夏休みの課題だった「質問調査」(日本で最初の女子大生の名前は?などの質問200項目を中央図書館にある蔵書で調べて答える)は面白かったけれど、司書資格で就職が有利にならなそうだったのと、何者にもなりたくなかったのと、貧乏人の溜まり場である図書館にそれほど魅力を感じなくなったのと、夜の授業が多い司書課程に出席することに辟易としたからだ。何事も中途半端に終わる、まるで人生のように。
 このアンソロジーは図書館の様々な性質について書かれている。いずれも図書館についての深遠なテーマを持ったすぐれた作品であった。だが、図書館にとって最も肝心な存在意義である「一に対する多」についての考察(→例えば「アレクサンドリア図書館」など)は取り扱っていない。そのため画竜点睛を欠いている。そのことだけが世界図書館の司書として文学フリマに参加する鯨には残念でならない。その他にもサラーフ・アッディーンによるダール・アルヒクマ、イスマーイール派蔵書売却(西暦1176年)など焚書系の話題はいくらでもあっただろう。それに弊社最初の発行物『物語群』にはそのまんま「世界図書館」という掌篇も収録されている。なのに、どうして喚ばれなかったんだ!
書架にねむる。_f0208721_1823654.jpg

水底図書宮第7分館(いぬのほねこ)
 ダムの底に沈んだ図書館の美しい描写。

天の川逃避行(鳥久保咲人)
 煙草を吸いながら気障っぽいことを言う変なお兄さんと、長台詞によって物語を進めてしまう謎の脇役という鳥久保作品におなじみのパターン。安心した、本物だ。

さくらさんの話(田中理桜)
 エスプリが効いていておもしろい。文学少女には向かない職業について。

中有図書館(日野裕太郎)
 あるいは中陰図書室。厳密に言えば図書室の話ではないけれど、いいよね、こういうの、コルタサルめいていて。図書館で本を読んでいるうちにふと「こんなの読んで何になるんだろう」という考えが首をもたげ人生の虚しさとか無価値さとかに気付くときがあるけど、その感覚をなぞって持って来たよう。

第百夜(久地加夜子)
 エロ師匠ヒガヒサ先生の控えめな一本。ここは叙述トリックで押し切ってもらいたかった。

千古草の巫女(くまっこ)
 「どこの国とも繋がっている」図書館か、そういうのもあるのか。

パネルラ(泉由良)
 空気感がうまいね。きれいだね。

 旅先で朝早く起きて、一休みしたくて地元の人と並んで入る午前9時の公立図書館が好きです。そこで郷土資料を読むのが好きです。
by suikageiju | 2012-12-02 18:06 | 感想
<< 文学の定義 何故? vol.10 >>