無料kindle本の中島敦著『
山月記』、この本に刻み込まれるように書かれた李徴の叫びは、いつぞや望月代表が言っていたように文学フリマやコミティアに参加していたり、kindleで電子書籍を刊行していたりする文芸作家たちの報われない文業に圧し潰された叫びでもある。そして悲鳴である。引用しよう。
己は詩によつて名を成さうと思ひながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交つて切磋琢磨に努めたりすることをしなかつた。かといつて、又、己は俗物の間に伍することも潔しとしなかつた。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所爲である。己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨かうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出來なかつた。己は次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによつて益々己の内なる臆病な自尊心を飼ひふとらせる結果になつた。
太字にしたところを声に出して読むと良い。君は大いに泣くだろう。あるいは君よ、大いに泣け。