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サークル閉鎖。
by 鯨
ゴースト≠ノイズ(リダクション)

ゴースト≠ノイズ(リダクション) 上

十市 社 / 十市社


 前提として、ネタバレすると何か問題が発生すると捉えられてしまうような作品は駄作である。たとえば面白さが損なわれるとか、たとえば読む気がしなくなるとか。良作とはネタバレしてもなお読者の再読、再々読に耐えうる強度を持つ作品でなければならない。実際に鯨はこの作品を読んで興奮した。そして、怒りを抱いた。それは感想を書く上でネタバレを恐れていた者どもについて、である。そしてこの作品を読んだにもかかわらずネタバレするかどうかで怯えていた者どもの読みの浅さと彼らが無邪気にも行っていた作者への侮辱について、である。
 これは「人間が見える範囲のもの」を描いた小説である。どこまでも人間的で血が通っており脈拍もあり何より温もりがある。でも、いやだからこそ作者が支配しうる範囲のストーリーでしかないのが心残りだ。もちろんこれはご都合主義だとかそんな的外れなことを言いたいわけではない、よくできたストーリー、人を惹き込む話、目をそらさずにはいられない場面、それらのパーツを巧みな設計士が横糸と縦糸で編み込んで小説としてパッケージされている。正直言って、傑作である。本屋で平積みされていてもおかしくない出来だ。だからこそそれが残念なのだ。間違ってもこの作品は「何も見えていない」小説でも「見えているけれど何を見ているのかわかっていない」小説でもない。作者の力量を感じさせる、力と可能性とを秘めた、「ちゃんと見ている」作品だ。そう思ったからこそ、敢えて誤解されるように書かせてもらえれば「魂」がない。たぶん直木賞だろうが芥川賞だろうが簡単に取れる力量を作者は持っていると思う。でも、この作品の作者がそれを望むのかどうかは分からないけれど、鯨はただ単純に、この作者によって書かれた「人間が見えざるもの」について書かれた小説をいつか読んでみたいだけなんだと思う。また繰り返しになるけれど、その痛みに耐えたいと作者が思うのかどうかは鯨にはわからない。

ゴースト≠ノイズ(リダクション) 下

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by suikageiju | 2013-03-25 23:50 | 感想
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