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サークル閉鎖。
by 鯨
文学フリマ非公式ガイドブックの新最高責任編集者に訊く
 7月23日(火)、非公式ガイドブック編集委員会「佐藤政権」に終止符が打たれた。憲章に則り、その場で新しい最高責任編集者に任命された高村暦女史に7月28日(日)インタビュを敢行した。それは、新しい体制へ移行しつつある非公式ガイドブック編集委員会の新トップがどんな人物であるか、そして非公式ガイドブックという場で彼女がどんな方針を打ち出して働いてくれるのかを諸兄諸姉に知ってもらうための茶番劇である。ラピュタを覆う雲よりもなお厚いベールに覆われた現役女子大生作家「高村暦」の素顔を暴いていきたい。
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――高村暦さん、最高責任編集者就任おめでとうございます。

: 別に祝われることではないんですけれど、ありがとうございます。

――第四版はどのような非公式ガイドブックにしたいですか。今考えられていることを教えてください。

: 一番に考えているのは掲載される本をより手にとってもらうための非公式ガイドブックにしていきたいということです。これまでの非公式ガイドブックは個々の紹介文のスタンスにばらつきがあったような気がします。もちろん紹介者の個性が出る、あるいは作家が書いているのだから文体の特徴が出たりするのは良いんですけれど、ただ紹介文として面白い、で終わらずその後で紹介された本を「読みたい」と思わせる紹介文と、そうではない紹介文が同居している状況だったと思います。

――具体的に誰の紹介文が読みたいと思わせるもので、誰のものがそうではない紹介文ですか?

: たとえば第1版の添嶋さんの紹介文なんかは読者の目線に立っているし共感作用を誘う部分があるので親しみやすく、そのあとで「ちょっと読んでみようかな」と思わせるような文章だなと思いました。一方で、たとえば第3版の山本清風さんの紹介文は、山本清風の文章としては面白いし、紹介文単体を読んだときに「おお」と思わせる部分がありました。ただ、それは紹介文をひとつの作品としてとらえたときに面白いのであって、紹介された本を激烈に読みたくなる、という紹介文ではありませんでした。
 そのどちらが良いのかは賛否両論あるはずで、どちらが紹介文として優れているかは一概には言えません。私個人としてはガイドである以上はガイドをするべきだと考えるので、そういう観点からすると添嶋さんのような紹介文を好ましいと思います。しかし、そればかりだとつまらないという懸念もある。さらにその一方で、無名作家が無名作家を紹介するとなったときに、同じように「同人」のスタンスで取り組んでいいのかという疑念もある。まあ、山本清風さんが「同人的である」というのは違うと思うのですが。

――最高責任編集者と同様に掲載拒否権を持つ責任編集者にその山本清風さんと鯨を任命しましたが、どういった基準で選ばれたのですか。

: 「古き良き伝統」を残す意味と、自分と対立する意見を言ってくれる人を求めました。

――なぜ前の最高責任編集者である佐藤さんを責任編集者に加えなかったんですか?

: 「佐藤さんの非公式ガイドブック」というイメージを払拭するために、敢えて任命しませんでした。ただ佐藤さんには事務面で色々と助けていただきます。

――任命された山本清風さんは先ほどのお話からするとダメな紹介文書きですが、なぜ彼を責任編集者に任命したのですか?

: 山本さんは独特な世界観を持ち、お会いすると社交的です。そして、文学フリマにかかわる事柄や人々全体をわりと「業界」として見ているという印象があります。というのは文学フリマを単に楽しむだけではなく作家性を発揮する場所としてとらえ、かつ本を流通させるという意味で「文学フリマがどうあるべきか」ではなく「文学フリマがどうありうるか」と可能性を考えているような気がします。さらにそれをはっきり言うことをおそれない人です、たぶん。基本的には性質が一つに固まってしまうのを避けたいので自分と異質であってくれる人を選びたかったんです。引継の打ち上げのときにズバズバ言ってくれた山本清風さんに「この人イイなあ!」と思い任命しました。

――では鯨を任命した理由は?

: 実は今回のお話をいただいたときから、以前の責任編集者さんお二人からどちらかお一人を任命しようと考えていました。鯨さんには一度原稿をお願いしたことがあり、今年は鯨暦譜に付き合っていただいた、という繋がりもあり、連絡がとりやすいかなと思い、打ち合わせのときには鯨さんにお願いしてみようと決めていました。あと単に人柱になってもらいたかった。
 もう一人の前責任編集者である屋代さんは、お忙しいという話も聞き及んでおりましたので、ぜひ別の形でご協力をお願いしたいかな、と思います。

――以前に『視姦』の原稿を鯨に頼まれたときも、鯨がご自身と「異質」だからと言っていましたね。今回も山本清風さんを「異質であってくれる人」ということで選択しました。異質さを取り入れるというスタンスが本を作る上で大事だと思いますか?

: それは本によりますね。非公式ガイドブックの場合は広い視野が期待されるし私もそれを望んでいる。これまで他の人と本をつくるということを3年近くやっていたんですけれど、大事なのは「異質でありながら矛盾はしない」ということだと考えています。もちろん全部矛盾しているという意味で統一されているというもの面白いんですけれど、それではガイドブックにはならないですよね。

――今まで非公式ガイドブック内で言われていたのは数多ある文芸同人誌で「編集方針に統一性が見えないこと」でした。本を選出する上でも文芸同人誌の編集方針の統一性を重視しますか、それとも単に編集方針は考慮せずに雑多な面白さを重視しますか?

: そこは保持しておきたい多様性ですよね。単に読んでおもしろいだけ、という本もあって良いと思うし、深く読み込んだり視点を変えて読んだりすると面白い本もあって良い。ですから個人的には、本の選定基準ではなく、紹介の仕方を問うべきだと思います。それから物理的な面、見た目が面白い……たとえば装丁や紙、印刷方法、本自体の形状が面白いというのもやはり捨てがたい魅力ですよね。形状が語るものもあると思います。

――なるほど。形状の面白さというのは今までの非公式ガイドブック編集委員会では掬い切れなかった観点ですね。鯨もそういう読書好きではなく本好きのための本はほとんど考慮してきませんでした。これから、どんな本が俎上にあがってくるか楽しみです。すると気になってくることがあります、これは編集委員会で何度か話題になったテーマなんですけれど、高村さんにとって面白い本って何ですか?

: 良くても悪くても、大きくても小さくても良いから何らかの化学反応を起こしてくれる本のことだと思います。

――化学反応って何ですか?

: たとえば人と人との出会いや交流もそうですけれど、自分と自分以外のものが出会ったときに生まれるものがあるわけですよね。たとえば好意かもしれないし敵意かもしれないし、何となく嫌な感じとかよくわからないなあとか、二度と会いたくないとかずっと一緒にいたいとか、お近づきにはなりたくないとか。本との間でもそういったことが起こると思っています。
 「自分にとって大切な本」ってよくインタビューとかアンケートで訊くじゃないですか、その逆で――ちなみにこれは冷村という、私の親友の表現なんですけれど――自分が強烈に呪われてしまう本、というのもあると思うんですよね。その「呪い」っていうのも、一つの化学反応だと思うんです。自分と他者がいないと発生しない、それが化学反応だと考えています。

――高村さんにとり大切な本、そして呪われる本って何ですか?

: まず大切な本は北村薫の『ターン』、呪われる本はいくつかありますけれど一冊だけあげるなら北村薫の『ターン』です。

――ふざけているんですか?

: 真剣です。鯨さんは私のどのような点をふざけていると思われたのですか。

――あなたは先ほどの回答で、大切な本と呪われた本を「逆」と言いましたよね。なのにその二種の本として同じ題名をあげられた。良い意味で、そして悪い意味であなたは上手にふざけられた、だから鯨はそう形容したのです。高村さんにとっての『ターン』を説明してください。

: 大切であり、同時に呪われるということもあるでしょう。私にとって『ターン』は、あらゆる意味で「原点」で、自分が作るものは気づくとどれも、そこに戻っている部分がある。その意味では大切であり、また、そこから逃れられないという意味では「呪われている」とも言えるんです。

――では、文学フリマという場で高村さんの言う呪われた本に出会ったことはありますか? あるいはこれから出会えると思いますか?

: 未来のことはまだ分かりません。

――明言は避けられましたね。よろしい、未来と云えばまだ非公式ガイドブック編集委員会の人員は定まっていませんよね。編集委員会の他のメンバーとしてどんな方に声をかけようと思いますか?

: まず責任編集者と珈琲カップで殴り合いをして、新しい方針を決める必要があります。それを基に新しく任命する編集員の方々にオファーをかけます。こちらが選ぶと云うよりは、方針が人を要求することになるでしょう。

――殴り合いとは暴力的ですね。ちなみに鯨を殴る時は北欧製の珈琲カップにしてくれますか? なんだか語感だけでそれは丸みを帯びていそうなので。

: 旅に使うステンレス製を持ち込みます。

――そうですか。作品と紹介文を選定する際もそんな痛みを伴う決断を下して欲しいものです。では最後に第十七回文学フリマに向けて、非公式ガイドブックの他に何を企てているんですか?

: 企ては、いつも向こうからやってきます。

――うまくぼかしましたね。それでは眠れない夜を。

: 眠らない文学フリマを。

――高村暦さん、ありがとうございました。

ターン (新潮文庫)

北村 薫 / 新潮社


匣と匠と匣の部屋-wir-

高村 暦 / 密林社


視姦

高村 暦 / 密林社


by suikageiju | 2013-08-03 00:15 | 文学フリマ
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