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リノベーションミュージアム冷泉荘
 九州初の文藝系同人誌即売会といわれる福岡ポエイチは「リノベーションミュージアム冷泉荘」のB棟1F2コ1多目的スペースを会場に6月10日に開催されるという。では、会場となる冷泉荘とはどんな建築物なのだろう?
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 まず「リノベーション」について「(指原)莉乃(のマスタ)ベーション」などと九州ならではの不埒な妄想をしてしまった鯨であるが、renovationは英語で「修復; 刷新」という意味の語句、「リノベーションミュージアム」で〈修復〉博物館といった案配だろう。冷泉荘は「冷泉荘とは」によれば「博多区上川端町で築53年を迎える昭和のレトロビル」で福岡のビルストック文化の一環として保存・活用されているとのこと。すぐ近くにある冷泉公園は博多どんたくの集合場所であり、博多祇園山笠では山笠が立ち並ぶ都市の祝祭空間を担っているという一面もある。また冷泉荘から博多川を渡ればすぐに鎮西随一の歓楽街中洲が賑わうという立地の良さ、まさに福岡娯楽の中心地にある施設だ。福岡市内には冷泉荘の他にも「リノベーションミュージアム山王マンション」や「新高砂マンション」や「KYOYA薬院ビル」といったレトロビルを再生させて活用する試みがある。これらのプロジェクトの根源を辿ってみるといずれも吉原住宅有限会社という企業に繋がっていて、この歴史ある不動産管理会社あってこその福岡ビルストック文化であるようにうかがえる。スペースRデザインNPO法人福岡ビルストック研究会といった吉原住宅の意志を受け継ぐ団体を通して福岡の古い建築物とまちを守る活動は存続しているようで、こういう運動が企業体を巻き込みながら展開している福岡市って、きっと文化的な奥深さを持った大都市なんだろうなという印象を抱いた。明治維新では目立たなかったけれど、なんだかんだ言っても筑前一国五十万石を支配した福岡藩の城下町といった風情だろう。
 冷泉荘にはレンタサイクルの福チャリアトリエ穂音などが入居しており多目的スペースもあって毎週様々なイベントが催されている。その一つであろう福岡ポエイチに出展するということは西瓜鯨油社も福岡のビルストック活動に知らず知らずのうちに参加するということなのかもしれない。
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by suikageiju | 2012-05-28 21:03 | 福岡 | Trackback | Comments(0)
七度目の鎮西旅行、福岡ポエイチ
 いわゆる九州をときどき鎮西と呼びたくなる。なぜなら「九州」には対馬国や壱岐国や奄美・琉球など海流の島々は含まれないし、どうも孔丘由来の儒教臭さが消えないからだ。だからいわゆる九州地方を示すとき、鯨は鎮西と呼ぶ。西海道よりも語呂がいい。
 福岡に転勤した祖父鯨をおとなう旅が最初の九州だった。父鯨といっしょに3歳の鯨は8月お盆休みの全日空ジャンボ・ジェット機に乗って羽田空港を飛び立ち福岡空港へ向かった。母鯨は東京に残っていた。貧乏籤をひいたようなものだった。機内からのぞいた雲の景色が鮮やかすぎて、まとわりつくような福岡の湿気のことは忘れてしまっていた。
 二度目に九州をおとずれたのは1998年8月、中学二年生の夏休みである。それは城研夏合宿なので鉄道を使って小倉城、福岡城、太宰府、大野城、水城、吉野ヶ里遺跡、佐賀城、唐津城、原城、熊本城と筑豊肥の諸城旧蹟をまわった。大野城で営林署の車に石礫をぶつけた嫌疑だけで三人の山男に説教をくらったのと吉野ヶ里遺跡の高床式倉庫から落ちて足を挫いた以外は、ぼんやりと鉄道に乗り写真を撮っていた。九州はひたすらに暑い、そういう印象だけがあった。帰りの寝台列車で、今は研修医をやっている男が持ってきた「こち亀」を読んでいた。
 三度目の九州訪問は2000年8月、高校一年生の夏休みである。それも城研夏合宿であって鉄道に揺られ小倉城、中津城、府内城、飫肥城、都城城、人吉城、熊本城と南九州を中心に攻めた。小倉では仲間が恐喝に会い、人吉では台風に襲われた。まだ自我が肉体と結びついていなかったのであやふやな記憶しかない。まだ道はどこまでも続いていると思っていたし、まだ精神はどこまでも飛翔すると信じていた。
 四度目の九州上陸は2008年8月12日、また8月だ。青春18切符で西を目指した。山口県の徳山で旧友と会い、福岡の紀伊國屋書店でクンデラの『存在の耐えられない軽さ』を買い、門司港駅前の噴水広場で遊ぶ少女たちの日焼けした素肌を楽しんで、関門トンネル人道を歩いて関門海峡を越えた。帰りの鉄道ではひたすら雲の造形学について考察していた。ただの仕事の憂さ晴らしだったのだ。
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 五度目の九州上陸は2008年9月である。職場放棄をして、携帯電話を穴太寺に捨て、秦野市から九州まで鉄道で逃げてきた。福岡から高速バスに乗って鹿児島へ行き、そこからフェリーで奄美大島へ渡ったときには10月になっていた。国道58号線を古仁屋まで歩き、バスで名瀬に帰った。またフェリーで沖縄へ航って沖縄そばを食べて首里城を回り、一日がかりのフェリーで鹿児島に戻る。鹿児島新港は雨上がりの匂いがした。そこから鹿児島中央駅まで歩いていった。次の行き先は北海道は知床斜里である。宮崎県を鉄道で北上していたときのこと、車掌に
「どこまで行きますか?」
 と尋ねられた。鯨はすかさず
「知床斜里まで」
 と答えた。すると車掌さんはとまどいつつも姿勢をただすと
「この列車は佐伯で止まりますので」
 と大分県の駅名を言って去っていった。
 六度目の九州行は2010年末2011年始の熊本である。東京から青春18切符で二日かけて熊本へ行った。でも特に何もすることはない。熊本市内でボーリングをして熊本城へ行って、ゲストハウスの投宿者から高千穂行きの往復バスチケットをもらって高千穂渓谷を見て来ただけの旅だ。ただ九州に体を持って行っただけのこと。
 そして七度目の九州行は6月10日福岡ポエイチ冷泉荘)参加のための旅である。一度目と同じように羽田空港から飛行機で行く。でも今回は全日空ではなく日本航空を使う。そして本を持って行く。『物語群』と『flugas filozof'』(賢者は飛ぶ)である。西瓜鯨油社はいままで関西には何回か行ったことがある。でも本州を出たことはなかった。そして今回は九州ではじめて活動する。福岡に、眠れない夜を。
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by suikageiju | 2012-05-27 09:31 | 福岡 | Trackback | Comments(0)
セックスマシーンと敗北者
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 安東洪児さんのコピー本。通路を徘徊していたら表紙がカッコイイのでブースにいた人に質問しつつ購入したけれど、読んでみて感嘆。言葉が脈打っている。感性のアンテナをビンビンに張って常に内側に向かって語りかけているトイレ係の生徒が主人公、無法を法とする「学校」、体育教師は殺され、転校生が女子生徒をレイプする、何もかもがイかれた世界。ふつうの学校生活とわりきってはしまえない冷血教室、「なぜ人を殺してはいけないのか?という問いかけに対する正しい解答は禁止をしないと皆が皆ださくなってしまうからだ」(pp.14-15より)、生徒は放課後アクションコマンドに「レイプ」のあるゲームをプレイ、重要なコマンドを「レイプ」や「殺す」よりも下に置かないで(PTSD値が高くなると「レイプ」は「和姦」に変わる)、そしてセックスマシーン転校生との戦闘、報酬としての女性教師レイプ斡旋、読んで楽しい青春学園小説。今のところ第十四回文学フリマ最大の収穫は安東洪児の名を知ったこと。
 これは『文化祭大革命』『学徒出陣』『@ルーザー』も買いたい。ぜひ第十五回文学フリマも参加して欲しい。
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by suikageiju | 2012-05-13 10:16 | 感想 | Trackback | Comments(0)
『-A 05』 &『視姦』
 誰が冷で誰が亜で誰が暦なんてわからないけれど、たぶん全員人妻な冷亜暦さんの新刊。「着想プロットをほかの人に丸投げ」という誰もがやりたくてやれなかった企画を実際に「やってみた」合同誌。著者名などを見ずに読んでみた。

 「水溶観覧車」の憂いを秘めてそれを形にしてしまったような発想と「黒い正方形」の文章がいいと思ったらどちらも暦の人だった。それにしても亜の人はいつもなんでこんなこと考えているんだろう、病んでいるのかな。ちょっと心配になる。ちょんとご飯食べているのかなとか、育児に疲れているのかなとか、まさか幼児虐待していないよねとか(誰が亜の人か分からないけれど)。
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 暦の人はあいかわらず読めるね。あと最新情報では変態男性が好きらしい。その暦の人が書いたのが『視姦』である。
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by suikageiju | 2012-05-12 21:57 | 感想 | Trackback | Comments(0)
『文学フリマ非公式ガイドブック小説ガイド』と『耽溺』を古書ビビビさんに納品
 下北沢は古書ビビビさんに『文学フリマ非公式ガイドブック』と鯨鳥三日『耽溺』を納品した。現在、西瓜鯨油社の『物語群』や『コルキータ』も含めて4種の本を古書ビビビさんに委託して、入り口近くに平積みして貰っている。徳川店長の気前の良さに感謝である。
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 『文学フリマ非公式ガイドブック』については文学フリマ当日に佐藤ブースにCOMIC ZINさんの営業の方が見えて、委託を提案されたらしいのだけれど納品下限冊数などの理由でお断りして古書ビビビさんに納品したという経緯がある。これは販促しなければと鯨はポップを急造し「探していなかった本、見つかります。」というこのガイドのコピーとともにちゃっかり第十五回文学フリマの宣伝も載せておいた。次の文フリもたくさんお客さんが来ますように。
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 納品作業が終わってかつ良で野条さんと食べたあと新宿へ立ち寄り、帰りにまた古書ビビビさんに寄って杉田敦著『メカノ 美学の機械 科学の機械』、青弓社(絶版)を購入した。ちょうどこの手の芸術と思想と機械の接合点のような本を探していたので助かった。下北沢の古書ビビビ、ふらりと立ち寄ったら必要な本が手に入る古書店さんとしても愛用している。
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by suikageiju | 2012-05-12 20:23 | 古書ビビビ | Trackback | Comments(0)
文学フリマ非公式ガイドブックへの反応
 発起人佐藤さんのもと、屋代さん、鯨、そしてblank magazineの野条さんと吉永さんの5人が力をあわせて第十四回文学フリマに向けて制作し、当日会場で146冊頒布した『文学フリマ非公式ガイドブック 小説ガイド』へのtwitter上での反応を集めてみた。結論を言ってしまうと、最初こそとやかく言われていたものの、蓋をあけてみたら結構好評だった。普通は最初好意的に迎えて、実際に固定されてしまったモノができたら貶すというのが定型というか鯨のやり口だけれど、どうやらこの件に関しては逆だったようだ。みんな優しいのだ。

 当日は天気悪かったよね。


 その豆知識書いたのは鯨!


 道具の使い方がうまい男はもてる。


 初参加かー。


 いやいや、おかしいだろ。完売したのはオカダファクシミリさんの小説がおもしろかったからだろ、非公式ガイドブック関係ないよ。


 「取り上げられるよう」じゃなくてもっと正しい方向へ精進して!これが願い。


 みんな同じ思いをかかえているから。鯨も。


 次回は是非。


 ワタリサエコさんの良さが広まって嬉しい。これも反応のひとつ。


 なら推薦して。


 一番かな? 4箇所で置いてあったよ。いつか2階にも置きたい。


 そのうち評論系もしくは一般参加者のかたが引き継いでくれるはず。鯨役の後継者もできているはず。


 推薦されたらそりゃ喜ぶよね。鯨はただオドオドしているだけだった。


 推薦文の長さは長すぎず短かすぎずでいいと思う。


 反対派でちゃんと非公式ガイドブックをdisれる人にもこの本を渡しておこうと思い鯨が自腹を切って渡そうとしたらパセリさんは「ちゃんと払います」と言って購入してくれたので、まさかと思っていたらこのtweetでパセリさんマジ策士と思った。とりあえず「ガイド」二回はダサい。


 小説ガイド@COMITIA100さん、そのものが非公式ガイドの反応なのでこれは反応への反応と反応。


 そういう機能をもてるようにしたい。


 非公式ガイドブックを媒介にしての出会い。


 こういう地道な動きも大事。


 非公式ガイドブックがnomazanさんというおしゃれな本の陳列棚に並べられてしまった事件。当日発売の公式ガイドブックは必ず公平ですが、自薦なので知りたい情報を得にくいだけです。


 2倍くらいの分量になったら索引を考えなければ。


 下北沢で買えるようになるかも?


 選ばれてしまった人のとまどいがよくわかる。



 次回もたぶん非公式ガイドブックやるよ。やるんだよね?

追加分
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by suikageiju | 2012-05-12 00:11 | 文学フリマ | Trackback | Comments(0)
河童チョコ
 ブログで読んだ小説が好みだったのでこっそり買っていた童チョコ。さんの『河童チョコ』伊藤佑弥さんという人が書いている。表紙が気持ち悪くていい。きっと伊藤さんは体温以下で生きている人だと思う。
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地味なグッバイ
 実は12pくらいでなんとなく仕掛けというかオチが読めたんだけどオチを知っていても、いや知っているからこそ楽しめたんだと思う。こんなさわやかな青春と学園な一品は鯨にはとても書けない。撮り逃がした季節があまりにも長すぎて、まぶしすぎた。誰も叫んだりはしないよ。

新宿永遠レコ
 自意識過剰な男の子がスマフォに録音した音声をこっそり盗んで聞いている感じ。あ、童貞なんだな、この感覚と何度も振り返る。あ、童貞なんだな、と。ねぇ、伊藤くん。どうして今まで姿を見せなかったの? ずっと君を待っていたんだよ。ねぇ。

いきしている。
 もう夏子をいっそのこと強姦してしまえばいいのに。それとは別のおはなしだけれど、きっと伊藤くんは知っているんだよ、ひどい女の子のことを、よく。だからだよ。待ち続けて待ち続けて、何も得られない無色さを君は知っているんだ。

河童チョコ
 女性は勝手にどこかに行ってしまう。男性にはどこへ行くにも理由がいるけれど、女性にはいらない。だから女性は河童になっていたりする。ああ河童か、それならいいな。君もどう? 河童になって戻ってみない? 河童か。

やめないでやめないで
 90pでもしかしてこの展開はと思ったら91pでまさにそうだったのかどうかわからなくなった。えっ? 言葉にならない声を聴いてしまいました。きっと君が心のなかでなにかを言ったのです。ええ、聴こえませんでした。
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by suikageiju | 2012-05-10 22:34 | 感想 | Trackback | Comments(0)
THE EIGHTH
 古い書物を開いたらとび出てきた人語を解する三羽の兎。そいつらの語る殺人事件の真相とは?
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 さて第十四回文学フリマStORy TeLLeR珀亞楓の新作は七人姉妹の生き様を執拗なまでに微に入り細に入り描くことで人間の秘めている狂気を暴こうとしている寓話である。各章では決まって少女たちの美しい肌を一枚一枚剥がしてその醜い肉を露わにしてやろうという作者の意図が見え隠れするけれど、結局露わになるのは作者のほうの卑しいまでの心性の醜さである。そのうえ、七人姉妹という設定なのに「八番目」を出現させている。「八番目」は七人姉妹の醜悪さの受肉化ではない、それは作者自身の投影だ。これは危険な兆候である。どうにかなってしまう前に珀亞楓はどうにかしたほうがいい。だからみんな、まずこれを読め。傑作だ。そして、これは感想ではない、注意喚起だ。
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by suikageiju | 2012-05-09 23:54 | 感想 | Trackback | Comments(0)
そして太陽は燦々と照っていて
 このブログのとある記事をきっかけに知り合った山本清風氏が名刺代わりに渡してきたのがこの名刺文庫である。ブースですこし話しただけでこれは面白い人材だと直感した。ご存じのように鯨の直感はよくあたる。そんな氏が「呑み会に参加したい」と言ったので佐藤さんが人を集めていた文学フリマ非公式ガイドブック打ち上げに招いた。でも山本氏は文学フリマ閉幕後30分たっても待ち合わせ場所に来ず、行方不明になった。佐藤さんやクロフネ3世らと事務局の机の片付けを手伝って時間を潰してもまだ来ないのでDMを飛ばして先に浜松町へ行き、乾杯をはじめる。一時間くらいして山本氏がやってきた。再び乾杯をして初見ということもありひとりひとり自己紹介をはじめる。何を話させても、何を聞かせても面白い男だった。
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 書かれた内容よりも書かれた言葉を楽しむタイプの作家だと思ってくれればこれ以上鯨は何も言う必要はないだろう。とりあえずどこかで山本清風氏とむりやり会ってこの名刺文庫をもらい個室トイレでひとりで読むがいい。何を目指しているのかよくわからないけれど、なんとなくところどころ面白い、そんな本だ。「未来のコンドーム」のコンドーム装着機が個人的には好き。そういえば奥付にはこう書いてある。「また乱丁本、落丁本はあたりです」おまえもか。
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by suikageiju | 2012-05-09 23:29 | 感想 | Trackback | Comments(0)
川町奇譚
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 文学フリマ会場の通路を歩いていたらたまたま見つけたサークル「少年憧憬社」さんの本。少年憧憬社と西瓜鯨油社と同じようなネーミングセンスを兼ね備えていることから立ち寄って買ってみた。そうしたら後から知ったのだけれど作者の栗山真太朗さんは1984年生まれと鯨と同い年。すげえと思ったのもつかの間、氏はBABYBLUEというバンドのドラムをやっているという事実があとがきで明るみになりその時点で人間としての格が違うことに気づく。もう一冊の既刊『約束を拾う郵便局員の話』については東日本大震災を題材にしているそうなので敬遠して新刊を購入した。シンプルな表紙も気に入った。
 川町という架空の、それでいて東京のどこかにある地方自治体を舞台にしている。舞台については他と隔絶された盆地(たとえば秦野盆地や四川盆地など)を使うのに勝る地理学はないのだけれど、南北に走る大型河川に挟まれた土地というのもなかなか魅力的だ。なんとなくそこは江戸川区っぽいし、下町のコンクリートのジメジメしたにおいがたちこめる灰色のイメージがある。その川町を舞台に私立探偵とその助手、ネクストバッターズサークルで神隠しにあった男の子、とある部屋に監禁されてテレビショーの娯楽の種となったアイドル美少女や好奇心旺盛な小学生、町の支配者の人生が交錯していく。【午前十一時】や【朝から昼】【午後十二時半】などと題された章によって画面はめまぐるしく切り替わり、まるで複数のカメラで川町を眺めているようで飽きさせない。そして場面ごとの描写が丁寧に書き込まれている。ちょっと登場人物出過ぎで話が分岐しすぎかなと思わないこともないけれど、話のふくらみとしては良いし「その花が「デイジー」だということにのぞみは気がつかないままでいた」(85pより)と花に託した空虚感の演出も巧みである。
 総じて言えば、これは文学フリマ非公式ガイドブックの皆さんが好きそうな本じゃないのかな。
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by suikageiju | 2012-05-08 22:32 | 感想 | Trackback | Comments(0)