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潜勢の文学であるということ
 先の猫鯨座談会で鯨と山本清風氏は承認欲求にからめて、特に女性同人文芸作家に向けてのメッセージとして
女性であるというジェンダーをぷんぷん匂わせながら「女性だから特別なんだよ」という子宮病をちらつかせるのではなく更にその上に技量を積んで何かを語れ

という内容を話した。その際に両者から同人文芸作家渋澤怜女史の名前が例示された。以下はその座談会とはまったく関係なくつぶやかれた女史のtweetである。



 鯨は女史の『バンドマンとは付き合うな』等を読んだことがある。性交表現のあることがエロさの充分条件ではないという前提で読むならば、特にエロさはなかった。そして「女」という面もさほど強調されてはいなかった。ただ語り口のみで鯨は彼女の技量を評価した。まずここでまとめ、渋澤怜女史は「女」としての武器は持っておらず、確かに書く技量がある。なので同人女性作家諸君は「それだけで同じ年の男の子より良いもの書けちゃう」という安易な言葉に惑わされたり安心しちゃったりして過去の女性作家に続いて駄作死屍累々とはせずに、ちゃんと技量を積んで作品を仕上げよう。そうやって文学フリマ並びに創作文芸界全体の底上げを図っていこう。
 「私は○○で特別なんだから」と仕上げられただけで技量を伴わない作品には、いつだってひどい目にあって来た。○○に入る言葉が何であれ「私は特別なんだから」なんて自負はいらない。ましてや「女」という世界の過半を占める性であっては特別さも無い。「二十代の女の子」がどんなに肉感的であったとしても、また、その作品を褒めることが性的蹂躙の達成に繋がったとしても、ただそれだけでは特別たりえない。普通でも全然構わない。○○症候群だとか○○人格障害だとか○○病だとか○○被害者だとか、自分を特別な弱者に仕立て上げるための理由や肩書きを探している暇があったら、この世界のどんな些細な事象でもいいからスケッチするようにして書く練習を積んで欲しい。自分を弱者に仕立てあげて、誰からも文句の言われない、自分を守ってくれる堅固な城塞なんて築かなくたっていい。ただ書く技量さえあればその力によって君は守られるのだから。そしてその書く技量で以て自分のアイデンティティを確立しろ。

 話は変わる。以前に女史と対談した際、霜月みつか嬢離席後に「普通さから逃れるためにもがくことでその普通さがかえって増幅されて凡庸への道を辿っているのではないか」と女史に言ったことがある。そのときは鯨も病み上がりで意識が朦朧としていて話の焦点を絞られず、しかもうまくそのことを説明できなかったので、女史からぴしゃりと「さっきから鯨の言っていることはひとつもわからない」と言われてしまった。もし改めるとしたら「普通さから逃れたことの卒業証書みたいな作品そのものではなく、無理をして普通さから逃れようと藻掻く渋澤怜という在り方こそが文学的である」、そのようなことを当時の鯨は言いたかったのだろう。
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by suikageiju | 2012-08-26 00:33 | 自己愛な人 | Trackback | Comments(0)
エウゲーノ・ミハルスキイ
西瓜鯨油社における同人誌という発想の起源は提唱者Ludoviko Lazaro Zamenhofが自費出版した国際補助語エスペラントの本、『第一の書』(la unua libro)にある。今日、成城のキヌタ文庫さんでエウゲーノ・ミハルスキイの詩集『序章』(PROLOGO)を購入した。国民性無き全世界協会(SAT, Sennacieca Asocio Tutmonda)の出版協同組合部門(ライプツィヒ)が1929年にパリのエペランティスト印刷センターで印刷した小冊子であり12篇の詩作が収録されている。店主の話によれば近隣に住む仏蘭西文学者が元の持ち主だという。その他2名のエスペランティストが生活費を得るために語学書などを売りにキヌタ文庫に来たとのこと。最近のエスペラント界について二、三会話をして店を出た。
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エウゲーノ・ミハルスキイ Eŭgeno MIĤALSKI は1897年西ウクライナの都市Letiĉev生まれの労働者エスペラント運動家・詩人で1911年にエスペラント学習を開始し1917年からサラトフ市での雑誌「Libera Torento」上で詩作を発表するようになる。その後も詩を発表し続け、教員図書館で司書として勤務する傍ら国民性無き全世界協会に加入してエスペラント雑誌製作に携わった。1934年には、ドイツでLudwig Rennらが立ち上げナチス・ドイツのために頓挫した革命的エスペラント作家国際協会(IAREV, Internacia Asocio de Revoluciaj Esperantaj Verkistoj)の活動をHonoreo Burginjonoらともに継承する。そのため1937年3月に反革命的・トロキズム的活動を行ったとしてソ連内務人民委員部に逮捕されその年の10月に処刑された。
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 この本は詩人エウゲーノ20代青年期の詩を集めた本であり、まだ政治的要請に詩が汚されていないころの詩集である。もちろん全文活版印刷であり、詩の題名の装飾体が美しい。言語と文学とのその生命を捧げたpaca batalantoとしてその名を後世に引き継ぎたい。

Eŭgeno Miĥalski -vikipedio

EŬGENO MIĤALSKI - Novaj informoj
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by suikageiju | 2012-08-20 23:04 | 感想 | Trackback | Comments(0)