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ジョソウダンシ!!
夏コミことコミックマーケット82で購入した本。霜月みつか嬢の「カヲルコ」と伊藤鳥子女史の「ミントブルーの回転」が収録されている。8月くらいから突然眠りこむ現象があってそこで作業が中断してしまうことがあり、この本も26頁まで読んで中断していて肌寒くなった9月下旬にふとしたことがきっかけで思い出して読みあげた。ちなみにこの本、表紙をめくると「すべてのかわいい男子女子に送る女装する男子の本」とあっていきなり「お前は読むな、糞ガキ」と言われている気がして腹が立つ。きっと夏に読んだときも腹が立ったのだろう、4Bの鉛筆で「送る」に二重線を引いて「贈る」と訂正してあった。
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「カヲルコ」と「ミントブルーの回転」とそれぞれ主人公として名前が[kaɔru]と発音する女装男子を据え、「カヲルコ」は豊田の一人称視点でその女装男子を描き、「ミントブルーの回転」は女装男子によりそった三人称視点で日菜子、長野などの登場人物とのかかわりを描いている。そして、霜月みつか嬢は繋げる人で、伊藤鳥子女史は並べる人だ。あるいは一人称だから繋げる他はなく、三人称だから並べられたのかもしれない。「カヲルコ」は話が繋げられている分、それこそ完全小説と言えるくらいの円形を保っている。一方で「ミントブルーの回転」は並べる人がよく起こし勝ちなのだけれど話が破綻しているという面白さがある。話の破綻というのは、書くべきモノではなく書きたいモノが並べる人の脳裏を飛び交ったときにやってしまうもので、今回の破綻の原因は日菜子なのかもしれない。日菜子はそれこそ破綻しているニンフォマニアな女の子らしいんだけれど、ニンフォマニアは「この人はニンフォマニアです」と書けばニンフォマニアになるわけではなくニンフォマニアな描写が必要なのにそれが無いのか、鯨が見つけられなかったのかは知らないけれど、その描写が無くて単に「こうなんです」と説明されているだけなので日菜子にニンフォマニアとしての印象が薄い。なので日菜子が「依存心や自己愛や性欲がごちゃまぜになった自分をあやういところで支えながら生きていた」という実感がどうも湧かなくて、そのために(きっと日菜子をこの話の軸にしようとしていたんだろうけれど)その他の登場人物、かおるや長野の描写の説得力に欠けている。特に長野が日菜子を選んだ理由「何か許されたような気持ちになったことは想像に難くない」だけでは想像に難く曖昧で、かおるの「信じてあげて欲しいな」で都合良く利用された感がぬぐえない。長野を登場させず日菜子エピソードをもっと盛れば良かったんじゃないのと思ったほど。それらを破綻と言えば破綻なんだけれど、もちろん物語に説得力は無くても構わないわけで、それで「舌入れてとろとろのキス、したいね。れろれろちゅるってしたいね」の魅力が半減するわけではなく、文章の切れ端に垣間見える作者の利己主義と暈かされた人物描写とカナの不要感でなんだかこう並べざるを得なかった焦燥感が漂っていて読後が気持ち悪く、その気持ち悪さが読み手にとっては面白さとなっていて「ミントブルーの回転」はとにかく気になる作品である。第十五回文学フリマでも頒布するとのことなので是非読むと良い。あまり女装男子は関係ないので読まず嫌いはダメだ。

コミティア101 stars/time/bubbles/laugh
女装☆男子 そんなときもある
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by suikageiju | 2012-09-25 22:41 | 感想 | Trackback | Comments(0)
蜜柑 いかるがつみき
出張先の大阪は中崎町、ブックス・ダンタリオンさんで購入した知古文庫、いかるがつみきさんの『蜜柑』。造本をされているのが知古つとむさんという方。そういえばこの二人組での別の本『コスモス』もダンタリオンさんに平積みされていたような気がする。帯のコピーが良かった。
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全段落「」で始まっているのも良いし、「」のあとに一文字下げないのも好き。きっとこういう話は余りにも鯨の人生から遠すぎた故に書かないけれど、もしこう生きられたら良かったな、と思う。あるいは人は人生から遠い故にその話を書くのかな。あなたの胸に蜜柑、空っぽの蜜柑を一つ。
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by suikageiju | 2012-09-18 20:02 | 感想 | Trackback | Comments(0)
人魚の来た街
人にこの本『人魚の来た街』を薦められたとき、サークル神無月に御逢いしましょうの説明よりもまず先に「冒頭二行がすごいんだ」と言われた。それでそこだけ読んでみたら本当にすごかった。
神田くんの彼女には、人魚の愛人ができたらしい。
神田くんはそれを、彼女からではなく猫から聞いた。

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国語の試験で「それ」が指し示すものを二十二文字で書きなさい、という問題がでてきそうだし、一行目の「彼女」と二行目の「彼女」とそれぞれ同じ用法で「彼女」の語が使われている例文を以下のなかから選びなさい、という問題もできそうだ。それで、この二行でもう完全詩なんだよね、最後まで読んでみるとわかるんだけれど。この二行で物語が出尽くされており、既に完成されているからあとの続く物語はすべて蛇足なんだよ。稲垣足穂で云えばこの二行は一千一秒物語の一節であって、あとに続く物語はこの二行の註に過ぎないんだ。論語で云うならこの二行が本文であとに続く物語は……。紀伊國屋書店の企画「ほんのまくら」でこの二行さえあれば一位を取れると思うよ。でも、筋はたいして面白くない。この本を読めばわかると思うんだけれど筋のおもしろさってやっぱり重要じゃないんだよね。言葉の使い方とか言い回しとか文体があって、それがおもしろければ本はそれでいいんだよ。本当に。そしてこの本は読むとちょっとだけ重力から自由になれる。
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by suikageiju | 2012-09-01 22:06 | 感想 | Trackback | Comments(0)