文学フリマの存在意義2
 コミティア90開催に当たっての中村公彦氏の「ごあいさつ」を読んで文学フリマの存在意義を再び考えてみた。現状はよく知らないけれど出版社での力関係は「作家<編集者」だったのだろうか。それが同人誌即売会の発達によって、編集者が「作者本人と直接出会えるであろう即売会に足を運ばねばならなくな」った変化が描かれている。考えてみれば作家が出版社を訪れ、編集者に「本にしてください」「雑誌に載せてください」と頭を下げるのは歪みである。芸術家でもない営業マンである大方の編集者には売れ筋はわかっても、作品の妙味はわかるまい。力関係は「作家≧編集者」でなければ日本の芸術・文化の行く末は先細るばかりだ。芸術・文化の領域での芸術と経済、芸術家と社会人の関係はどちらかがどちらかを服従させるのではなく、お互いに支えあうのが理想である。新人作家や素人作家でも同じことだ。ゆくゆくは出版社の社員が作家を発掘するために文学フリマを訪れることも頻繁になるだろう。文学フリマで売られている本は、ケータイ小説より読みにくいし売れにくいが、はるかに面白く深い。売れる商品よりも、百年残る作品を見出したほうが編集者の功績にもなろう。
 前に引用した言葉をもう一度書く。「芸術家や哲学者は本質的に独力で成長することができる。彼らの人生の道程は性質の転換と作品の完成度を高めることから成るのであり、他者との関係から成るのではない」文学フリマは自由である。それゆえに、その自由さのなかで作家は作品の完成度を高める責任があるし、高めていく余裕がある。文学フリマはこれから成長する未来の「文章の芸術家」が、己の人格を成長させ、作品の完成度を高めていく場である。これが文学フリマの存在意義だ。

「文学フリマの存在意義」西瓜鯨油社



「ごあいさつ」中村公彦氏

 ふと気がつくと、今回のCOMITIA90でコミティアは発足25周年でした。記念すべき第1回は記憶の彼方ですが、まさか25年続くとは夢にも思わなかったのだけは確かです。時を経た、もう一つの感慨は、こんなにも同人誌と商業誌の垣根が低くなるとは思いませんでした。外的な要因の一つはWEBの普及でしょう。ここ10数年で浸透したWEB上での自己表現欲求は、既存の商業メディアを大いに圧倒しました。「描きたい」「見て欲しい」という人がWEBで自己発信をはじめ、広がった広大な裾野からは多様多彩な才能が生まれました。何より商業流通のルートに乗らないでも世界に向けて作品を発表できる影響は計り知れません。幸いにしてWEBと同人誌メディアは親和性が高かったようですが、新人の投稿・持込が激減した出版社などは、自分でWEBサイトをリサーチして依頼メールを送ったり、作者本人と直接出会えるであろう即売会に足を運ばねばならなくなりました。
 コミティアの出発点から「創作にプロもアマもない」というポリシーはありましたが、会場に本当にたくさんの職業編集の人が出入りしたり、スカウトされてデビューする作家も増えました。このティアズマガジンにも、最近とみに新創刊誌の広告が増え、コミティアのおなじみの作家の名前がラインナップに並んでいます。ぜひ、みんな活躍してほしいと思います。
 一つだけ、余計なお節介でこれからプロになろうとする作家に伝えたいのは、編集者の意見を鵜呑みにはしないこと。「仕事」ですから、色々付加条件があるのは仕方ないですが、きちんと内容を斟酌しましょう。編集者も十人十色。人によって言うことは違うもの。「自分の言うことだけを聞け」と縛りつけるのは論外としても、それが「正しい」「正しくない」ではなく、その一編集者一雑誌の立場からのあなたの評価に過ぎないのです。「プロの絶対的な評価」として受け止めると、自らの可能性を狭めかねません。
 プロになってもっとも怖いのは、版元のその場その場の注文に応える内に「自分が何を描きたいのか」を見失うこと。もし迷ったり、混乱したら、出発点であった同人誌の自由さを思い出してください。自由であるから、自身の個性を磨いたり、新しい挑戦も自己判断で出来たはず。マンガ家は元より組織に帰属するサラリーマンではありません。保障はないが自由がある。契約書はないが選択肢がある。そういう職業です。発表の場が商業誌でも同人誌でも、自由にのびのびと描かれたマンガを、読者は求めていることを忘れないでください。
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by suikageiju | 2009-11-03 19:52 | 文学フリマ | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from Lusitania Hi.. at 2009-11-13 13:37
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