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サークル閉鎖。
by 鯨
オラシオ・カステジャーノス・モヤ
 オラシオ・カステジャーノス・モヤ(Horacio Castellanos Moya)は1959年ホンジュラスは首都テグシガルパ産まれのエルサルバドル人作家。たぶん世界地図を広げてみないとエルサルバドルの位置なんてわからないだろうから、彼はイスパノアメリカ人だ。それでいい。昨晩はセルバンテス文化センター東京へオラシオさんの『崩壊』の日本語訳本出版発表会があった。聞き手は訳者の寺尾隆吉准教授。
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 まず『崩壊』という本は3部構成で、第1部は1963年11月22日ケネディ暗殺の日を描く。娘の結婚を呪う“狂気”の母親が式に出ようとする夫をトイレに閉じ込めるシーンを描くことで国家的な争いと家庭の争いを対比している。第2部はサッカー戦争を描いている。エルサルバドルとホンジュラスの国家紛争を娘と母の争いと対比している。そして父の死と夫の死を描き、エルサルバドルのクーデターが不正選挙によって市民戦争となった「崩壊」の過程を描く。第3部は歴史状況における崩壊と家庭の崩壊を描いている。オラシオ氏はこの作品で世代間の確執(保守的な母と自立的な娘の対立)を描いた。一族の歴史と国家の歴史を対比させるのはラテンアメリカ文学の一つの要素かもしれない。またオラシオ氏は「いかにして戦争が人々の頭の中ではじまるのか?」を描こうとしたという。サッカー戦争(第2部)はすでに6年前、つまり1963年(ケネディ暗殺の年、第1部)にすでに人々の頭の中で始まっていたのだ。
 オラシオ氏は第1部をスイスのバーゼルで第2部をドイツのフランクフルトで描いた。エルサルバドルから距離をおいて書いていた。また69年11歳のときにサルバドル市内で空襲の怖さを知り、72年14歳のときにはパーティーの帰りにサイレンの音とともにクーデター勃発を経験し、興奮と冒険心を覚えたという。そしてアルコール中毒更生会の内輪もめはオラシオ氏によるフィクションかと思ったら史実だという。それらの経験を彼は直線的に(つまりは網羅的に)描くこともできた。しかしオラシオ氏は「簡単に飽きてしまう」人で、直感的に選んだ文体にチャレンジするという。第1部は劇のような対話形式で、第2部は昔の貴婦人のような書簡体で書いたのもそれによる。
 オラシオ氏の作品は大きく2つに分類され1つ目は市民戦争後の「民主主義は政治ゲームにすぎない」ことが露呈したあとのスパイ小説てきなもの、2つ目は家族史である。『崩壊』は後者に属する。
 ラテンアメリカの文学市場は分断されている。メキシコの本はアルゼンチンで紹介されないし、コロンビアの本はメキシコで紹介されない。その中でラテンアメリカの文学を世界に広めたいと言っていた。たとえばニカラグアのエルネスト・カルデナル、グアテマラのミゲル・アンヘル・アストゥリアス。そのほか、エルサルバドル作家としてレイロッラ、ラファルメ、エスクードスなどの名があがっていた。エルサルバドルは文学的基盤が弱いという。
 最後に鯨は2つ質問した。オラシオ氏の書く動機と鷲の岩山と神話とのつながりについて。それはいいとして、別の人の質問の返答で、グアテマラ内戦についてはいろいろな小説があり市場もあるのに、エルサルバドル市民戦争にはそれがないと言っていた。文学にはいろいろな側面がある。歴史上の事件を一市民の視点から語る。それも文学である。
 最後にサインをもらった。
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オラシオ・カステジャーノス モヤ
現代企画室
発売日:2009-12


by suikageiju | 2009-12-17 09:33 | ラテンアメリカ文学
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