ノーベル文学賞作家ミゲル・アンヘル・アストゥリアスの『グアテマラ伝説集』という「魔術的リアリズム」の父祖的著作の存在を聞いたことはあったけれど、
オラシオ・カステジャーノス・モヤさんの発表会で改めてその名を耳にし、「語りの祖」と聞いて気になっていた。それから一週間も経たない今日、ぶらりと出かけた隣駅の書店で偶然これを発見した。
「
痙攣する文体」という表現を鯨は使う。これは巧みな魔術的リアリズムの文章に出会ったときに読者が味わう身体感覚をあらわした言葉だ。物語の論評に文学史的位置や社会的意義などのくだらない言葉を並べる評論家という輩がいる。なんと虚しい営みだろう。物語よりも虚しい営みだ。物語の鑑賞にはそんな空虚な言葉は必要ない。「身震いした」「勃起した」「鳥肌がたった」「頬に氷が走った」など、物語が身体に与えた感覚をそのまま口にすればよいのだ。
『グアテマラ伝説集』にはまさに身悶えするような表現が羅列する。これはまさにグアテマラの大地から引き出された隠喩の百科全書である。「恩寵の甲状腺腫をわずらっている」「満月の下で断崖警備人が歌う 」「水と蜜の夜明け、家畜の白い息 」「惑溺の夜。樹々の梢で狼の心が歌っている。ある男神が、次々に花の処女を犯してゆく。風の舌が刺草を嘗めまわしている。星もなく、空も道もない。巴旦杏の愛の下で、泥が肉の匂いを発している」「惑溺の夜。樹々の梢で狼の心が歌っている。ある男神が、次々に花の処女を犯してゆく。風の舌が刺草を嘗めまわしている。星もなく、空も道もない。巴旦杏の愛の下で、泥が肉の匂いを発している」「大地の静脈血である焼けつくような溶岩」「金剛鸚哥、もしくは熱帯の法悦」「護符、雨乞いのための鹿の眼球、嵐から身を護る羽毛、そして妙なる幻覚を呼ぶマリファナ」「植物の通貨であるカカオ」「巨大な蟇蛙の吐く赤い唾」「魚たちの向こう側で、海は孤独であった。根たちは、すでに血を失ってしまった無辺の広野で、彗星たちの埋葬に参列した後、疲れて眠ることもできないでいた」「また、すでに熱によって腸を焼かれてしまった爬虫類は、チョコレートの匂いを発するココアの樹の根に捕らわれていた」「魚の内臓に隣接した、林檎と薔薇の壁の間における一種の夢」「硫黄の匂いと松脂の冷ややかな輝きのなかで、爬虫類の夢を秘めた樹液が緑、赤、黒、青、そして黄色に枯渇し始めたのである」
読者諸君。これを読み、震撼せよ。