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サークル閉鎖。
by 鯨
わたしを離さないで

わたしを離さないで

カズオ イシグロ / 早川書房


 安定している文章に常に違和感がつきまとう。その違和感は少しずつ解けていって、最後にへールシャムの秘密が暴露される。キャシー.Hの一人称による語りに読者は感情移入する。しかし「人間」である読者は最後の最後で疑い出すだろう、「今までの読みは正しかったのだろうか」と、感情の綻びはひとつも無かったのかと。
 ファンタジーの醍醐味は、同じ「人間」の視点で語られているにもかかわらず、惑星や文化や人種の違いによって読み手が一人称による語り部との感覚のズレ、違和感を覚えることにある。女性の読者が男性の一人称語り部の作品を読んだときに陰茎が勃起する感覚について正しく理解できるとは思えない、そのことと似ている。『わたしを離さないで』で、鯨はキャシー.Hとなった。ある程度は正しく感覚を共にしたと思うし、ズレはなかったようだ。そのことに恐怖を覚えた。
by suikageiju | 2010-01-21 08:58 | 感想
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