第十三回文学フリマ「牟礼鯨」を終えて
 文学フリマは開幕するまでが怖ろしい。前日の夜遅く、当日の早朝まで続くネット上での各サークルの宣伝攻勢、ustreamやtwitterやブログなどありとあらゆる閘門から吐き出される情報の海に、自分の文学が飲まれて溺れて粉々に砕けていやしないかと、自分やサークルの存在が忘れられていやしないかと、そして当日11時文学フリマの幕が上がってみたら閑古鳥、誰もブースに来なくてただひとり、ぼーっと壁とにらめっこしているのではないか、と不安だけが募るからだ。
 今回は西瓜鯨油社ではなく牟礼鯨の個人ユニットとして、小説ジャンルではなく誤記としてのノンフィクションジャンルとして参加した。配置は2階の一番奥、隣のオシャンティ揃いの歩きながら考えるさんも含めて、非小説系ならではのハイセンスなブース群のただ中で、泥臭い散文小説サークルが文字の印刷されただけの何の工夫もない文庫本を並べて頒布活動をする、文学フリマ事務局はそのような過酷な戦いを鯨に強いてきた。そして、その結果は、新刊『ガリア女』が41冊頒布+3冊贈呈、いつまで売っているんだという『コルキータ』新装第三版残部3冊完売、太田和彦+霜月みつか+牟礼鯨でつくった眼球本『Los ojos』残部30冊がチラシブースで知らないうちに完布。とまずまずの結果だった。これもひとえに周囲のサークルさんと弊ブースにいらっしゃってくれた方々のお蔭である。
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 まず隣の「歩きながら考える」(アルカン)さんとhiさんが良かった。文学フリマにこんな善良なる人々がまだ生存していたのかというくらい品行方正なる人たちで、下駄を履いていないというところがかなりの高得点だった。鯨がターリー屋さんにインドカリー弁当を買いに行けば売子をしてくれ、喉が渇いたと言えばタリーズのコーヒーを買ってきてくれた。彼らの隣人愛がなければ、売子もいない個人ユニット「牟礼鯨」は『ガリア女』を20冊も売れていなかったに違いない。深く深く彼らに感謝し、一緒に「官能俳句コラボ」をしたい。
 またブースにいらっしゃってくれた方々にも感謝の意を捧げたい。金色に輝くマフラーを首に巻いた関西人と『コルキータ』を読んで素朴な表紙が良かったと言ってくれたその長軀なる先輩さん、「そんなに目くじらをたてるな」と手ぬぐいをくれた高校教師、生後まもなくと思われる赤ちゃんを抱いてミソジニー満載の『ガリア女』を買ってくれた女性、今日誕生日だった人、ジェフユナイテッド市原のユニホームを着た人、ゴスロリファッションの人、象のマークのチョコレートを呉れた人、被災地岩手県から日帰りで来てくれた方、赤い洋服がステキな女性、鯨に手を振られたのでブースにやって来たのに「どうしたんですか?」と訊かれた男性、一輪の花のように華奢な女性、諸処の創作文芸の方々、そして『コルキータ』を読んで良かったと言ってくれ「応援しています」と言ってくれた少女。彼らが文学フリマ前に鯨が抱いていた不安をすべて解消してくれた。ネットはやはり、文学フリマ全体ではない。その一部、一割でしかなかった。文学フリマに来てくれる方のほとんどは本当に純粋に文章が好きで来てくださる人たちなんだ、その思いを鯨はこの十周年記念すべき第十三回文学フリマで新たにした。(下の写真は太田和彦氏撮影)
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 16時を過ぎて撤収した後、鯨は原付を走らせて下北沢にいた。そして行きつけのお好み焼き屋で1103号室の『COMPLEX』を読んだ。これだけは今日中に読んでおかないといけないと考えたからだ。昔、鯨は『複雑系』という本を出したことがあったが、「人見知り」のウィットや「自分嫌い」の終わり方を見て、自分もちゃんと書けていただろうかと確かめざるをえなくなり、隣の椅子の上に置いてあった段ボールを開けて奥深くにしまった『ガリア女』を取り出した。2週間前に入稿してから一度も読んでいない本だ。それでも自分の本だからということもあるのだろう、読みやすくてさくさくと頁が進んだ。食べかけの広島風お好み焼きも、飲みかけのコーラのことも忘れて、読書に熱中した。読み進むに従って、文学的精神の高揚があった。最後の掌篇「お逮夜」の最後の行を読み終えて、こみあげてくるものを抑えられなくなった。自分の本なのに、執筆時や推敲時も含めて3回目に泣いた。そして鯨は悟った。鯨は、鯨の文章がたまらなく好きなのだ。文学フリマでこうやってサークルをやっているのも、自分の書いた文章を本にして自分が読みたいだけなのだと、そのことに改めて気付かされた。これは自分自身が好きなのではない。他者としての自分の文章がたまらなく好きなのだ。
 他の人に読んでもらえる。そして自分の文章が読める。そんな文学フリマが次回も開催される。また出たくなるのが、同人作家というものだろう。
 
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by suikageiju | 2011-11-03 20:54 | 文学フリマ | Trackback | Comments(0)
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