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サークル閉鎖。
by 鯨
先読
創作文芸誌において最も尊ぶのは「完全なる書物」への近さである。だから西瓜鯨油社の本は『西瓜糖』や無料配布誌以外では「一作者一冊」を貫くし、他のサークルについては、個人サークルの個人誌を合同サークルの合同誌よりも尊重する。
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山本清風の文体には癖がある。一言で言えば「まわりくどい」、もう少し付け足せば「まわりくどくて何が言いたいのかわからないけれど、なんか面白い」。山本清風作品はかつて二冊の名刺文庫を読んで、文体は評価したけれど「完全なる書物」への希求性を感じなかった。だが、どうだろう第十五回文学フリマの『先読』は。作中に出てくる貨幣とは書籍の隠喩だ。その貨幣版元である株式会社株式会社の営業アルバイト・田西源五郎は《先読》の能力者である。彼は同じく能力者で犇めく社内を舞台に、労働基準法に抗いながら社畜として金蔵界銀行や胎蔵界銀行に営業を仕掛け貨幣を卸す。文体が、設定が、物語が、とにかく抱腹絶倒で面白い。山本清風はこの「完全なる書物」に近しい作品を以て、2011年以前全ての創作文芸誌を華氏451℃で焼き払う覚悟を見せた。有象無象の創作文芸作家達が滅んだ殺戮と焚書の荒野、燃える紙の熱で罅の入った眼鏡を右手で外す山本清風。白いシャツはところどころ破れ、ズボンは煤け、衣服の乱れが彼の興した戦争の激しさを物語っている。でもネクタイは撚れてさえいない。鯨は脇腹を抉りとられ腎臓を喪いながら、首から上を吹き飛ばされた渋澤怜の屍を踏み越え、山本清風に追いすがり、その撫で肩に手を置く。
「やめろ、清風。おまえはこんな景色を見たかったのか」
 山本清風は振り返る。その顔には菩薩の如き微笑みだと!
「景色? そうですね、鯨さん。私はただ無用な者共と無駄に書かれた本とをこの地上から滅したかっただけです。そして、あともう少しでなんですよ」
 そう言って山本清風はその右肩に置かれた鯨の手を払った。
「全て焼き払っておいて何が残っている? これ以上誰を殺し、何を焼こうというのだ。罪を重ねるのはやめろ」
 鯨の声は彼には届かない。音だけは届いて想いは何も伝わらない。そんな高みに彼は登極したのだ、そう"創作家たちの王"に。
「罪ですと。まだ気付かないのですか、鯨さん。そういえば、あなたにはまだ息があるようですね」
 その時、山本清風の胸がぱっくり割れ、両腕の脇から伸びるもう二本のぶよぶよの腕……。山本清風〈天使形態〉……!?

「はわっふ」
 鯨は目覚める。夢だった。
by suikageiju | 2012-11-22 06:12 | 感想
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