弊社ブログ記事
「第十六回文学フリマin大阪」会場踏査において「総合すると投宿に最適なのは地下鉄も南海高野線も通る動物園前(新今宮)近辺となるだろう」と書いた。
すると女性の創作文芸結社の方2名から指摘を受けた。
動物園前近辺は非常に治安が悪く女性の一人歩きは論外(男性女性に関わらず宿泊も勿論)と大阪人でも云われます。by泉由良さん
鯨は「日本のどこであろうと、時刻を問わず、女性の一人歩きは危険をともなう」と考えているし、「女性は歩く性的危険体」とも考えている。その考えからすると女性が存在するところが即ち移動危険地帯なのであって、固定された地域・場所が特に危険ということではない。
上記のお二方の指摘はご尤もなのだけれど、いずれも「云われます」「言われました」といった伝聞、卑俗に云えば噂話程度の情報でしかない。もちろんそのような噂が立つくらい、大阪市西成区北東部、動物園前から今池、萩ノ茶屋にかけての釜ヶ崎地区は日本のなかでも混沌とした特殊な「場」であるのは確かだろう。むかし女子大生3人組がV系バンドの地方公演に駆けつけるために釜ヶ崎地区の安宿に泊まったところ、早朝安宿の窓から老婆が路上で放尿している場面を目撃したという。では噂などではなく、実際に数値として現れる釜ヶ崎地区の危険性はどうなのだろうか。平成24年の大阪府における
刑法犯罪種及び手口別発生市区町村別認知件数を各区の平成24年12月の
推計人口で割って、犯罪遭遇率を算出してみたところ西成区は大阪市24区中8位の犯罪遭遇率となった。
これだけ見ると繁華街を含む中央区、北区、浪速区の方が西成区よりも犯罪に遭遇しやすいそうだ。それでも西成区が特に危険と言われるからには西成区には警察が認知しきれないくらい陰謀論的にヤバい犯罪が多数発生しているのだろうか? 参考になるかは不明だが平成14年には日本全国の警察署のなかで西成警察署が殺人の認知件数第1位だったこともある(
衆議院議員長妻昭君提出全国警察署の犯罪発生件数及び検挙率に関する質問に対する答弁書)。ただ過去に何度かこの地区を訪れてこの地区で宿泊している押井徳馬さんは以下のように述べている。
浮浪者=危険というイメージも分からなくはない。鯨もイスタンブルのテオドシウスの城壁でジプシーの子供たちに「マニー! マニー!」と囃し立てられ追いかけられた。結局一銭も盗られなかったけれど、結構危険な状態だったのかも知れない。なぜなら子供は足が速いからだ。以前に鯨が西成区の釜ヶ崎地区を23時ごろに歩いたときも浮浪者が多数徘徊していたけれど、いずれも足腰が弱そうだったので万が一襲われても義務教育を受けた30歳未満であれば徒競走の要領で走れば重いカートを牽いてもいない限り容易に難を逃れられるだろう。ゾンビ映画でゾンビに追いかけられた時のことを思い出せば対策はいくらでも立てられる筈だ。
森井御大は映画「太陽の墓場」を紹介すると共に釜ヶ崎で起こった数度の集団暴力事件について述べ、文学フリマという「文学」を冠するイベントに参加するのだから、大阪における文学のひとつの現場を素通りするわけには行かないとも述べている。危険性が高いから低いから投宿地として不適だ最適だという理屈ではない、そもそも危険性が高い特殊な「場」だということは相対的に文学性が高いということ、であるならば文学フリマに参加する以上そこを避けるわけにはいかないのではないかという文学のありかたに寄り添った主張である。
文学フリマの文学性の無さが指摘される昨今、たとえ超文学フリマだろうが大阪文学フリマだろうが、森井御大のこの視座だけは失ってはならないだろう。文学的体験と即物的事案を分けて考える限り、その思考の結果として産まれる文学は偽物でしかない。
では、結局のところブログ記事に書いたように「動物園前(新今宮)近辺」が本当に最適な投宿地か? というと、西瓜鯨油社にとっては最適だが、万人についてもそうだとは言えないというのが今提出できる答えだ。そのくらい自分で決めろと言いたい。そしてもう一つ言えるのは大阪文学フリマに向けての投宿地を選ぶ際になるべく危険を避けたいという方はよくよく対策しておいた方が無難だ、ということくらい。女性であれば恋人や配偶者、父親あるいは護衛の男性とともに来阪することをお勧めする。それと、大阪では浮浪者よりも警察官や高校体育部の顧問の方が暴力的で恐いので「公務員だから安全」などと油断して注意を怠らないよう気をつけて戴きたい。
それでは大阪であなたが濃密な文学的体験を経ることを祈る。