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サークル閉鎖。
by 鯨
約束の収穫

約束の収穫

ヘリベ マルヲ / 人格OverDrive


 予め書いておくけれど、この作者はすごいよ。
 読みながら興奮していた。もともと学校関係者だったのか学校への取材を綿密に行っていたのかは知らないけれど何かに裏打ちされた確かな描写力、そしてきっと幼少期に人生を台無しにしてしまえるような絶望を知った者だけが為しうる冷めた筆致。頁を繰るのが楽しく、きっとヘチマのような顔の女の子に嫌な思い出があるのだろうか、とか徳島産ソフトって徳島県の教員が開発したソフトウェアだろうかなどと脇道めいたことを考えながら読み進めていった。「そして数日後には誰の手も借りる必要がなくなった」なんて好みの文言が出てくればすかさず汗で濡れた人差し指を上下に動かしてハイライトである。
 青葉市立第四中学校に赴任した“学校警察官”浦賀太一巡査部長、そして彼の赴任から十日あまりで発生し百数十名が犠牲となった銃乱射事件を描く。鯨はこの作品をルポルタージュ作品として読んでいた。幾つかの章は事件もしくは事件後の描写からはじめられ、それから章を貫くように事件前の十日間が描かれる、ときどき絶妙なタイミングで回想が混じる。日本版『予告された殺人の記録』とも云うべき、読み手を引き込む力を持った構成である。もちろんこんな事件は実際には起きていない。なのでルポルタージュを装った文学作品なのだろう、そう思って鯨は読んでいた、11章までは。ただ、勝手にルポルタージュだという思い込みで読んでしまったがために11章後半で鼻白んでしまう。このまま浦賀太一が殺されれば鯨はすっきり読み終えていただろう。でもそうは成らなかった。「やられた」、鯨はそう吐いた。まんまと踊らされたのだ。
 もちろんルポルタージュ作品として読み進めても良いし、そうではない作品として読み進めても良いだろう。それは君の自由だ。自由を与えられたのだから君は鯨の判断が正しかったのかを確かめるべきだと思う。なぜそんなことを言うのかって? 君に訊きたいんだよ「君はこの本を読んでみてどう思う?」って。
by suikageiju | 2013-02-24 22:10 | 感想
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