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サークル閉鎖。
by 鯨
Lull
 大阪文学フリマの翌日13時半過ぎに鯨は中崎町に降り立った。来阪するときに鯨は新大阪から御堂筋線で難波か天王寺へまず行ってしまうので、中崎町へ行くということはもうこれから大阪を離れるという徴である。ただ、まだ東京へどうやって帰るかは決めていなかった。ふらふらと通りを歩き、入ったのはアラビク。なぜそこにしたのか? 文フリ当日に大阪にいるだろう全ての知人を喪失した鯨は、きっとアラビクになら犬尾春陽さん或いは他の作家がいるだろうと考えたからだ。喫茶の鯨は卓に座り天秤ブレンドとチョコケーキを注文して、某誌に載せる原稿をポメラで書いていた。ケーキを食べ珈琲を飲み、あとで宮内悠介さんらが来店されてからはポメラを閉じてkindleで読書をしていた。同じ学部出身ということで話しかけても良かったけれど鯨の方が5歳くらい後輩でしかも面識は無かったので気後れする。宮内悠介さんと同行されていた方が店主と話しているとき、犬尾春陽さん、花森ゆきめさん、そしてFさんが来店した。予想が的中して安堵する。しかも動詞ではなく固有名詞級の的中だ。柱の蔭から犬尾さんがゲルマニックな顔を出されたとき、鯨は挨拶をした。
「犬尾さん、こんにちは」
 驚かせてしまったようだった。鯨は卓の端により、3人と鯨は一つの卓を囲んだ。そのとき、嗅覚を失った花弁一枚とひき換えに花森さんから渡されたのが7篇からなる言葉の断片が収録された『Lull』である。
Lull_f0208721_2050202.jpg

 アラビクのあとは芦屋へ行くという予定を聴いていたけれど、結局そこへは行かずに中崎町の古着屋さんで「出産は才能」という知恵を得てから犬尾さん、花森さん、そして鯨は新大阪で新幹線に乗り込む。大阪から名古屋まで、犬尾さんと花森さんは三列席、鯨は二列席の通路側と隔離されていて、そのときに鯨はアラビクで手渡された『Lull』を読んだ。横書きに構成された文塊がその余白に溶け出すようにして文意を拡げていく。韻文でも散文でもない、この蒸溜器とも呼ぶべき言葉の器を読み終わったとき「lulu」の最後の段が、頬の温度を失うくらい素晴らしかったので通路の向こう岸にいた花森さんに言葉をかけようとしたら当の著者は眠っていた。
 名古屋駅を出て花森さんと犬尾さんがどこかへ行き、鯨が誘われたのは三列席の真ん中だった。美女に囲まれた夢のような車内。左隣の犬尾さんが喫煙スペースに立ったとき、右の肘置きに体重を預けて鯨は右隣の花森さんに声をかけた。
「どうして横書きなのですか?」
by suikageiju | 2013-04-16 21:28 | 感想
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