表象文化としての「売り子」論を福岡ポエイチで
 「鯨さんの作品には校正が必要です」と書かれたメールを読んだとき、他人の本になんてことを言うのだとメールを送った人に対して怒りを覚えた。それと同時に自分自身に対しても怒りを覚えた。というのは鯨もそのメールと同意見だったからだ。

 4月29日深夜、新宿の珈琲西武で鯨は分離派の久保田氏(三重県)に「君は福岡ポエイチへ行くべきだ」と言った。当然のことだけれど、久保田氏は肯んじた。たぶん鯨はそのとき調子にのっていたのだろう。隣でだまって珈琲を飲んでいた高村暦女史にも「君も福岡ポエイチへ行くべきだ。早稲田なんだから暇だろう」と勧めた。すると女史は眉を顰めながら「旅費を大阪で使い果たしてしまいまして、もし旅費を出してくれるなら行きます」と返す。もしかしたら鯨は酔っていたのかもしれない。女史のがめつさを気にとめることなく「旅費を出せば行くんだな」と再び訊いた。
 超文学フリマを終えて「鯨暦譜」の印刷代などを精算するに際し、高村女史は請求書をPDFで送りつけて来て、それに記されていた金額は¥30,600円だった。「鯨暦譜」はそんなに枚数を刷っていなかったはずで印刷代にしてはやや高額だと感じる。きっと本来の数字ではないのだろう。ならば、いったい何の数字なのかと振り返り、忘れかけていた珈琲西武での会話を思い出した。5月1日、鯨は職場の帰りに小田急線に乗り、登戸駅で降りて徒歩5分、建てられて半世紀は経っているだろうビルの錆び付いた外付け階段を昇る。そして踊り場で両足を揃え、黄色地の紙に赤字で「臓器高価買取」と大書されたポスターが貼られた扉を開けた。「いらっしゃい」、ねばっこい声色をした店主が満面の笑みで迎える。「何かお困りですか?」
 コミティア104閉幕後に訪れた神保町のろしあ亭で、鯨は中身の入った黄緑色の銀行封筒に「鯨暦譜印刷代」と墨書したものを女史に手渡しながら
「これをどうするのか君はわかっているんだろう?」
 と問うと女史は「はい」と肯んじた。女史が鞄に封筒をしまうと
「これ食べなよ」
 と鯨はピロシキを半分に切って女史の皿に置く。
「食欲ないんですか?」
「ほら、お昼インドカレー食べ過ぎて」
 そう言いながら鯨は、アルコールで熱を帯びて疼く脇腹の手術痕をさすった。

 昨夜、Gmailが来ていた。高村女史からである。メールには簡潔に「福岡へのチケットを取りました」とだけ書いてあった。
「バカだこいつ」
 と鯨はひとり呟き、同時に高村女史が先日手渡した3万円を例の柏ホストに貢がなかったことに感心した。自分の欲求よりも文学を優先した人間が少なくとも一人はいたのだ。鯨は「では売り子をお願いします」とだけ打ってメールを返信した。これで等価交換である。
 6月8日、9日と福岡県福岡市中洲川端駅近く冷泉荘にて第2回福岡ポエイチが開催される。西瓜鯨油社は両日参加し、新刊『昔鯨類』を頒布。それとともに鯨暦譜企画を再起動する。
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by suikageiju | 2013-05-19 18:21 | 福岡 | Trackback | Comments(0)
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