アラビア語の双数形について
 単数形と複数形はよく知られているけれど、世界の言語のなかには名詞が2つのものを表わす場合にとる形を持つ言語がある。その形を双数形あるいは両数形と呼ぶ。この双数形がある言語はスロヴェニア語やソルブ語やギリシア語アッティカ方言やサンスクリット語やアラビア語などがあげられる。
 双数形の存在を鯨が知ったのは大学2年生のとき、アラビア語初級の授業を受けていたときだった。鯨は講師が何を言っているのか理解できず、その日は残りの講義をすべて自主休講して高田馬場駅近くの居酒屋で泣いた。一晩中泣いてやっと理解できたのは、この世界には「一」と「多」だけではなく「双」という概念で事物をとらえる人たちがいること、そして鯨はどうしようもなく一人だということだった。

 アラビア語の双数形は名詞が主格のときは「-aan(i)」を接尾して、名詞が属格や対格のときは「-ayn(i)」を接尾する。ただしこれは正則アラビア語(フスハー)の場合であり、俗アラビア語(アーンミーヤ)ではすべての格で「-ayn」を接尾する。具体例で説明する。

バーレーン王国
 ペルシア湾に浮ぶ小さな島国で、サッカーやガルフ・エアで知られる国。この国名の「バーレーン」はアラビア語で発音すると「バフライン」(Bahrayn)であり「バフル」(Bahr)=海の双数形属格である。「二つの海の王国」が国名だけれどこの二つの海が何を指すのかには諸説ある。

・『バイナル・カスライン
 ノーベル文学賞作家ナギーブ・マフーズの代表作『バイナル・カスライン』(Bayn-al Qasrayn)。「Bayn」は前置詞「~の間」であり、「al」は定冠詞、そして「Qasr」は宮殿の意で、つまりバイナル・カスラインとは「2つの宮殿の間」の意。エジプトの首府カイロにはファーティマ朝時代に建てられた2つの宮殿がかつて存在し、その2つの宮殿の間にある大通りがバイナル・カスライン(Bayn-al Qasrayn)と呼ばれた。前置詞に続く名詞は属格に活用する。

イスカンダル・ズルカルナイン
 マケドニア王アレクサンドロス3世(大王)。イスラーム圏ではイスカンダル双角王(Iskandar Dhu-l-Qarnayn)と呼ばれる。「Dhu」が前置詞「~とともに」であり、「-l-」は定冠詞al、「Qarn」は角であり「Dhu-l-Qarnayn」は「双角つきの」。双角のイスカンダル。前置詞に続く名詞は属格に活用する。

ハラマイン
 アラビア半島のヒジャーズ地方にはマッカとマディーナというイスラームの二大聖都がある。聖地あるいは聖都(Haraam)が近接して2つあるのでこれらをまとめて「二聖都」(Haraamayn)と呼ぶ。アーンミーヤである。ハラマイン高速鉄道がやがてこの2つの聖都と巡礼者たちが使う海港や空港のあるジッダを結ぶ予定だ。

【間違った双数形の例】
ターリバーン
 このアフガニスタンにおけるイスラーム武装勢力を「ターリブ」(taalib、学生)のアラビア語における双数形(taalibaan)と考えている人がいるけれど、実際は「ターリブ」(taalib、学生)のパシュトゥー語における複数形(taalibaan)である。
[PR]
by suikageiju | 2013-05-27 06:46 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://suikageiju.exblog.jp/tb/19586649
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
<< トニー滝谷と孤独 春の演習アムリタ×水道航路 >>