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サークル閉鎖。
by 鯨
誤配、受取拒絶
 手紙は誰に届けられるべきか。ガルシアへの手紙は本当にキューバの山奥へ届けられるべきだったのか。決して「ガルシア将軍はどこにいるのか」とは尋ねなかった配達人のローワン君。君は本当はキューバへではなくカリフォルニアへ行かなければならなかったのではないか。
 あとこんなことも訊いてみたい。確かにマッキンリー大統領は手紙を差出した。そしてローワンは配達した。確実に届けた。でもガルシアは本当にその手紙を受け取ったのだろうか。

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 くろやぎさんはしろやぎさんからのおてがみを受け取った。受取拒絶はしなかった。でも読まずに食べた。くろやぎさんはおてがみを受け取って、ただ読む前に紛失してしまっただけだ。
 しろやぎさんはくろやぎさんからのおてがみを受け取った。受取拒絶はしなかった。でも読まずに食べた。しろやぎさんはおてがみを受け取って、ただ読む前に紛失してしまっただけだ。
 その証拠に彼らは次のような文面の手紙を返している。
さっきの おてがみ
ごようじ なあに

 しろやぎさんもくろやぎさんもお互いに相手の文面は読んでいない。でも受取拒絶はせず、ただ紛失してしまっただけだ。しかもお手紙を互いに贈与しているので、彼らの関係は永続される。
 彼らに文面なんて必要なかったのかもしれない。

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 そこは誰もいない郵便局だった。なぜ自分がこんなところにいるのか、理由は知らなかった。知らなかったのは理由ではなくここに至るまでの道筋だろうか。局内にはカウンターがあって窓口が三つある。右は保険係、真ん中は貯金係、そして左は郵便係である。でも笑顔で迎えてくれるような郵便局員はいない。この郵便局にいるのは僕だけだ。なぜならここは誰もいない郵便局だから。扉の上部にあいた窓から外を覗くと見渡す限り草原が広がっていて、丘が地平線に膨らみを与えている。遊牧民が羊を放牧していてもおかしくはない土地だ。どこか北海道の道東じみていた。
 この郵便局では何をする必要もないし何をすることもできない。宛名の無い手紙も投函されないし、差出人の書かれていない手紙を配達する必要もない。暇なので振込用紙に架空の振替口座と誰でもない加入者名を記入したり、贈与品のパンフレットを片っ端から読んだりした。「水菓子入りのゼリーがおいしそうだ」とパンフレットの端にメモ書きさえした。もしかしたら数百年後にこの誰もいない郵便局を訪れた人が僕が書いたこのメモを読むかもしれないと考えた。もちろんそのメモは誰にも読まれず、この郵便局が朽ちるのと同じように腐蝕して分解されて消えてしまうのかもしれないけれど。それは誰もない郵便局でも誰かがいる郵便局でも同じことなのかもしれない。書かれた葉書や手紙は決して誰かに読まれると保証されているわけではない。それらはただ書かれただけで、もしかしたら否きっと誰にも読まれずに誤配されて消えて無くなってしまうのだ。
by suikageiju | 2013-08-24 14:08 | 雑記
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