ハープと影
古書ビビビで入手したカルペンティエールの『ハープと影』。ラテンアメリカ文学の魔術リアリズムは征服者コロンブスがカトリック両王へ送った偽りに満ちた報告書に端を発するのかもしれない。
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ジャンヌ・ダルクは1431年に異端審問にかけられ焚刑に処された死後、1456年に異端無効化裁判を経て1909年には列福、1920年には列聖された。19歳で死んだ彼女は4つもの宗教裁判を経てフランス、そしてカトリックを代表する聖人となった。また、大西洋を渡り新大陸へと到達したクリストバル・コロン(クリストファー・コロンブス)も19世紀末に列聖されようとしていた。この本は3部構成からなり第1部の「ハープ」は教皇ピウス9世がコロンブスの列聖調査誓願書に署名するに至るまでの躊躇いを描き、第2部の「手」では聖人ならざるコロンブスが死を前に「インド」への航海前とその最中で犯した自身の罪を悔悛し、第3部「影」はコロンブス死後400年を経てシスティナ礼拝堂で執り行われた彼を列聖するための裁判の模様である。しかし、彼の列聖は「悪魔の代弁者」(ヨハネ・パウロ2世により廃止された役)の弁論により退けられる。ラテン・アメリカの作家であるアレッホ・カルペンティエールがコロンブスの列聖調査審問を描く、ただそれだけで本書は読むに値する。なぜなら、現在のラテン・アメリカ文化はコロンブスがいたからこそ存在しているからだ。コロンブスが列聖されようがしまいがラテン・アメリカは否応なく存在させられている。コロンブスの聖性は否定できるが、それでもなお彼の存在は否定できない。全てのラテン・アメリカ作家にとり、偽りに満ちたコロンブスは、そうだからこそ父親のような人物なのだ。この本はそんなどうしようもない父親を受け入れるための生温い目線である。
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by suikageiju | 2014-01-02 12:41 | ラテンアメリカ文学 | Trackback | Comments(0)
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