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澤田彩香登場作品一覧
 登場人物の名前を考えるのが面倒で、現代を舞台にした小説の女性登場人物は「澤田彩香」か「白丘みなみ」に決めている。特に「澤田彩香」については、人物の背景や住所もだいたい統一してきているので作品毎に新しく取材をする必要がない。
 作家が作品ごとに登場人物の名前を変える風潮に疑念を抱いている。特にやたらと凝った漢字を使った読みにくくて覚えにくい名前が出てくれば疑念はますます募る。名前を変える必然性がないなら、作品毎に一々登場人物の名前を変えることはない。そういえば、鯨は尾沢美津子が出てくる映画を何本観たことだろうか。
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 西瓜鯨油社ならびに牟礼鯨はこの「澤田彩香」シリーズを出すことでその偉大なる文業をいくらか迂回しているきらいがある。

・「ローラ」、『耽溺』(2011.6.12)
 澤田彩香初登場。まだこのときは小田急線沿線(世田谷区)で主人公・村瀬勉と同棲しながら売春をする少女という設定だった。

・「お逮夜」、『ガリア女』(2011.11.3)
 澤田彩香の初再利用。大田区の池上本門寺で10月中旬に催されるお会式にまつわる話。この話を書いたときに澤田彩香について、大田区から川崎市東部にかけての地域に住んでいる少女という構想が固まった。

・『浄められた花嫁の告白』(2012.5.5)
 森響太郎、川崎駅、妻恋神社という要素がこの作品で澤田彩香にまつわるものとしてはじめて出てくる。また、森響太郎は「一日に七十八通のメールを飛ばして人間としての誠意」を見せもする。

・『勃起不全機械β』(2012.9.20)
 名前だけ使った。ちなみに、夫の名前は澤田礼太郎。

・『南武枝線』(2012.11.18)
 森響太郎、川崎駅、妻恋神社という要素がここでも出てくる。また、川崎市東部・中部への現地取材により新しい要素も加わった。『浄められた花嫁の告白』と共通するエピソードも登場する。

・「大貧民」、『常磐線』(2013.4.28)
 名前だけ登場。設定は使っていない。

・『受取拒絶』(2013.11.4)
 森響太郎、川崎駅、鹿島田、チッタデッラといった『南武枝線』と重複する要素が出てくる。
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by suikageiju | 2013-09-25 06:59 | 文学フリマ | Trackback | Comments(0)
都市生活七つ道具
 文学フリマに作家として参加するような生活者が都市に繰り出すときに持っているべき七つ道具。外出する際に持っていくモノが予め決まっていれば何を持っていくか迷うことはないし、「あれを持ってくれば良かった」と後悔することもない。これは行くカフェを決めておけば、どこへ行くか迷う必要のないのと同じ原理である。

情報カード5×3とメモパース
 素早く直感的にメモをするには、アナログな筆記行為をともなう情報カードが相応しい。文章をメモる補助罫、図表や地図をメモる方眼罫、それに半券やチラシの切りぬきなどを貼る無地を使い分けられる。Twitterで公開すべきではない情報の貯蔵庫として保存、整理できる。名刺を忘れたときも名前や電話番号を書き込めば名刺代わりになる。画板となるメモパースはボールペンも収納できる。ここは書きやすい三菱のジェットストリームの出番だろう。
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デジタルメモ
 情報カードに載せる情報が都市を歩いていて得た着想だったり思想の萌芽となるような種だとしたら、ポメラのようなデジタルメモに書く情報はちょっと長い思考の痕跡である。駅前のカフェや公園のベンチ、小腹をすかせて入ったカレー屋で腰を落ち着かせてまとまった文章を書く。書きためた文章はブログにアップロードするかもしれないし、雑誌に載せるかもしれないし、小説本に変わるのかもしれない。いずれにせよここが作家の戦場だ。
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電子書籍リーダー
 地下鉄やJRでの移動でちょっとした空き時間ができたとき、スマートフォン等でTwitterをチェックするのも良いけれど予めダウンロードした電子書籍を読んでみるのも良い。数十冊分の電子書籍データが入っていても、本のように嵩張ることはない。KindleやLideoなどの電子書籍リーダーがあってモバイルwi-fiルーターを持っているかwi-fiの通っている場所にいれば、調べたい項目があったり、読みたい文章があったりしてもすぐにその場で電子書籍データをダウンロードすることができる。
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文庫本ブックカバー
 手軽な電子書籍も良いけれど、街角でふと立ち寄った古書店の何気ない書棚では、電子書籍ストアでは売っていないような古い文庫本を見つけることもある。クイントデザインのブックカバーで文庫本をくるめばバッグの中で傷つかないし、どこでも本を読むことができる。読んでいくうちに折り目や皺のつく蝋引きのブックカバーが手になじむのも楽しい。
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ショルダーバッグ
 ポケットがたくさんあり、たいていの物が入ると思えるくらい中はゆったりとして容量の大きいショルダーバッグ。単行本や文庫本はもちろん単3電池や各種カード、財布にスマートフォン、電子書籍リーダーにポメラ、両脇に折りたたみ傘と500ミリリットルサイズのペットボトルも入る。空間を節約して下着類を詰めれば夏季の二泊三日旅行も冬の一週間旅行もこなせる収納力を持っている。
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原動機付自転車
 自転車ブームの中で、あえての原付である。500円分のガソリンで150㎞は移動できて、軽自動車税は1000円~1200円、自賠責も任意保険も比較的安く、また車検がなくて半年に1回エンジンオイルを交換すれば済むので維持費はそんなにかからない。その上、自動車よりもはるかに小回りがきいて、自転車よりも躯は疲れない。同人誌即売会に関して言えば、東京ビッグサイトは二輪駐車場、東京流通センターは流通センター駅の高架下、川崎産業振興会館は自転車置き場に原付を停められるので直接搬入時には輸送車としても使える。また近隣諸都市や郊外への取材旅行でも足として便利だ。
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コンドーム
 人生が変わると言われ、厚さ0.02ミリの近距離恋愛を可能にしたサガミオリジナル。大切な人を守るため、そして自分を守るために必要な薄皮一枚。都市は常に人が行き交いそして出会う場所。文学的探求心の結果として何が起るか分からないから、いつも携帯しておくべき一品。
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by suikageiju | 2013-09-24 17:55 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
あいちトリエンナーレ以外
 去年は原付で東京大阪間を往復した。今年も9月の連休を利用して原付で遠出しようと考えていた。でも行き先はなかなか決まらない。或る夕刻、Twitterを眺めているとこんなtweetを見つけた。

 即座に原付旅行計画を白紙に戻し、近所のニッポンレンタカーで20日夜から23日朝までコンパクトカーを予約した。高速料金が割引されるとは云え60時間分のレンタル料は高くついた。でも、9月9日にも名古屋をおとなって秋山真琴氏に会い、それを機に名古屋で文芸座標の久保田輝氏と会うという口約束をしていたことが誘い水となった。その後、出発間際になって久保田輝と高村暦最高責任編集者が既に名古屋会談の手筈を整えていたことを知り、鯨もそれに顔を出すことになった。東京・名古屋間はtweetのように深夜に移動する。愛知県ではあいちトリエンナーレが開催されていたけれど鯨はそれ以外を観てまわった。

愛岐トンネル群
 愛岐トンネル群とは、JR中央本線の定光寺駅(春日井市玉野町)近くにある、1966年に廃線となった旧国鉄中央本線の鉄道トンネル跡。そこであいちトリエンナーレに併せて「荒野ノヒカリ」展という催しが行われていた。つまりこれはあいちトリエンナーレではない。
 トンネル群のあるおおよその場所は定光寺という尾張徳川家の菩提寺周辺であり、東海自然歩道も通っていて、名古屋の奥座敷とも呼べる大自然のただ中にある。
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 下は庄内川沿いにそびえる廃墟となったホテル「千歳樓」。窓ガラスが割れている。自動車で訪問する人は城嶺橋東交差点南の駐車場に停めて、城嶺橋を渡る。
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 JR中央本線の定光寺駅。本当はここから行った方が歩く距離が短い。
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 鉄道トンネルの遺構が数基のこり、芸術作品の展示やパフォーマンスが行われている。1961年当時の時刻表にあわせてトンネル構内に機関車の走行音が流れるsoftpadの演出が面白かった。
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豊田市美術館
 美術館の建物こそが芸術作品とも云える、トヨタの町の美術館。そこで開催されていたのが「反重力」展である。「特別連携:あいちトリエンナーレ実行委員会」なのでこれもあいちトリエンナーレではない。
加速度的に非物質化していく現在の社会を反映し、私たちの身体や生活を規定してきた枠から逃れるものとして、ここに「反重力」という言葉を掲げます。
本展では、身体から解放されるような軽やかな空間性を感じ、世界を巨視的な視点で眺めて地上の価値観から離れ、宇宙的な視野を持つことを目指します。(説明板から一部抜粋

 スピーカーをたくさん吊して楽曲を流すやくしまるえつこの展示やジルヴィナス・ケンピナスの「Beyond the Fans」が気に入った。来場者に「反重力」をイメージさせる展示なので作品自体はちゃちい(「繊細なので触らないでください」と言われる)。展示の目的から考えると、芸術作品とは美術館に置かれたり架けられたりするモノの方じゃなくて、チケット代を払って来場している我々自体なのかもしれない。
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ヴィレッジ・ヴァンガード本店(第1号店)
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 あいちトリエンナーレと関係がない、天白区植田西にある、あのV.V.の1号店。名古屋は「文化不毛の地」と呼ばれるらしい。確かに名のある観光名所は少ない。街並みを見ても大阪や京都のようなワクワク感はなくて、札幌のような寂しさを得る。この個人的感情はテレビ塔と碁盤目状の街並みのせいだろう、なんだか栄と薄野が重なって見える。ただヴィレッジ・ヴァンガードは名古屋が創業の地で、ゲオも名古屋が創業の地であるという。どうやら文化を創造するよりも文化を加工して発信する方が、名古屋は得意らしい。中世のころから名古屋は左にあるものにちょっと手を加えてから右に回して利益を得る商人たちの町なのだ。ヴィレヴァンは1号店でもヴィレヴァンだった。

覚王山アパート
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 福岡ポエイチの会場となった冷泉荘のように古い木造アパートをリノベーションした施設。入っている店舗は頻繁に新陳代謝する。ネット情報では1階に古本カフェ・ソボクロがあるのだと思ったらそこには古本カフェ・甘露(アムリタ)があった。アパートの中身は手芸屋や工作屋の市場のように各店舗あるいは各クリエーターがひしめきあう。あいちトリエンナーレは関係ない。

伏見ミリオン座
 大学のゼミ合宿に参加し、現地解散を迎えた高村暦女史を愛知芸術文化センターで拾う。どうやら彼女はあいちトリエンナーレそのものをゼミの同級生とともに見て廻っていたらしい。最高責任編集者を助手席に乗せ、広小路通りを東に移動し久保田輝氏を覚王山で拾う。久保田氏がおごってくれると言うので、鯨は覚王山近辺のコインパーキングに車を停めてどこか文化的な食堂に入って食べようと思っていた。けれど高村女史は「鮓が食べたい」と言う。どうやら他のゼミ生は解散後、教授と鮓を食べに行ったらしい。でも高村女史は久保田と合流したため鮓を食べ損ねた。だから「鮓が食べたい」とのこと。合理的であるということはこんなにも恐ろしいのか。鮓をご馳走になった後、3人は鮓屋の真向かいにあった伏見ミリオン座内の古本カフェに入る。久保田氏が、買ったばかりの録音機を取り出した。


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by suikageiju | 2013-09-23 17:22 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
本の杜4報告
 「台風18号で東京はひどいことになるのだ」とは思わなかった。午前6時に屋根を打つ雨音に起こされたとき「昼にはどうせやむのだろう」と信じた。人は台風接近の報に直面したとき、きっと自分はニュースに取り上げられるような甚大なる災害の被害者になるのだろうと思いこむ傾向がある。鯨はそこを逆手にとった。「特別警報になるやもしれぬ」という予想が思い浮かんだと同時に「きっと今日のうちは大したことにはならないのだ」と直観したのだ。まだ台風は上陸せず、ちょっと前線がぐずついただけに過ぎない。数サークルがTwitterで参加とりやめを示唆するなか、鯨は直接搬入用のダンボールを緩衝材のビニル袋で包んだ。
 小田急線も山手線も京浜急行も少々の遅延があったものの運行休止にはならず、ちゃんと動いていた。そして問題なく9時15分ごろに新しくなった京急蒲田駅に着き、その10分後には大田区産業プラザPiOに到着して会館前に待機列が出来ていることに驚いたけれど、よく考えればそれは1階大展示ホールの蒲田鎮守府の一般待機列だった。
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 2階小展示ホールへ行くとすでに机と椅子の設営が終わっていた。鯨はスタッフ証をもらい「A」「B」「C」「D」の紙を机の端に貼った。カタログをもらうと西瓜鯨油社の紹介文の半角空白が半角の「?」に文字化けていた。改行は反映されていなかった。アグロシさんは細面に困惑を浮かべながら弊社ブースへ寄ってきてカタログを開きアグロシ文庫の紹介文を見せてくる。読むと出だしが一文字欠けていて、しかも同じ文章が3回くりかえされていて狂気じみていた。「主催に悪意はない」ということで2人の意見は一致したが、読みにくく配置図のない不親切なカタログを2度と開くことはなかった。
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 スタッフとしての仕事がなくなるとブース設営をはじめた。ダンボールは防水が不完全で『オルカ』の7冊くらいが濡れてしまった。そのうち天地は濡れたけれど小口は乾いている3冊の奥付に「水濡れ無料配布」と追記してチラシ置き場に置いた。
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 予定通り11時に6割方が埋まった状態ではじまった本の杜4であったけれど、遅れてやってきたサークルが加わって午後になると9割方のブースは埋められた。午後にはもう雨はやんでいたのだ。ただ一般参加者は少なかった。もちろんいなかったわけではないけれど少なかった。それと期待していた蒲田鎮守府からの流れ人は10人くらいであったように思う。台風なのに来場してくださった方は勇敢者として称えたい。サークル数が本の杜3よりも増えた分、一般参加者の比率の低さが目立った。「読んでもらいたい人は多いけれど、読みたい人は少ない」そんな作文界隈の現実が浮き彫りになった。悲しいけれどこれが現実なんだ。
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 今回も休憩所にお茶と珈琲とスナック菓子が提供された。たった500円で4時間強も見本誌読み放題で居座れる「蒲田文芸カフェ」が出現したのだ。もっとこの点を主催はアッピールすべきだと思う。だって本の杜の取り柄って、この休憩所と見本誌くらいじゃないの? もしくは委託サークル専門イベントにすると云う手もある。鯨は少しだけ委託受付に座っていたけれど、思っていた以上に委託サークルさんの本が捌けていた。「サークルの人がいると選びにくい」という層にこの委託サークル専門イベントは受けるかもしれない。
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 15時半に、本の杜4はとくに盛り上がりを見せないまま静かに幕を閉じた。撤収の後、17時半から公式打ち上げだったが、そこまで待っていられないのと、会費が4000円と高額なので、鈴木さんが引率し、伊織さん、クロフネ三世さん、高村さんと鯨の5人でJR蒲田駅西口の鳥万3階で非公式打ち上げを執り行った。自己承認欲求とニューアカ風潮と下ネタ受容における性差について文学部3年生的な談義を交わし、それぞれの路線へと帰って行った。非公式打ち上げが終わったとき、昼に本の杜が開催されていたことを覚えている者は、少なくともその5人のなかには1人もいなかった。

 帰宅してから収穫品を整理した。
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・『星を食べる少女』、田島大、新嘲文庫
 鉄道物の師匠。

・『夢の降る街』、水無月美伊、紫陽花宮
 なんだか読みやすかった。

・『飄々』(第67号)、大東文化大学文化団体連合会國文學研究会
 無料配布。

・『軸』、南風野さきは、片足靴屋
 委託本。装丁と値段を見てこれは買うしかないだろうと思った。

・『猫少年二篇』、少年憧結社猫
 銃をベースに持ち替えて戦う二人の写真が良い。すべての楽器を武器に。

・『断片集』(ver.130915)
 いつの間にかおしゃれな装丁になっていた。

・『脅す人形』、乃木口正、妄人社
 棒人間が気に入った。

・『書物回廊――俗・ある濫筆狂の記録から』、鈴木真吾、C-ROCK WORK
 
・『鉄人四迷の十二迷』、鉄人四迷
 「ドゴン」が殊の外良くて購入。

・『出雲残照』、唐橋史、史文庫
 唐橋さんの本は今まで2冊くらい読んだことがあるけれど今回はじめて購入。歴史物は史実どうかはともかく「歴史」によって裏打ちされたコンテンツとしての魅力がある。たまたま『赤朽葉家の伝説』を読んでいて伯耆国から出雲国あたりに興味を持っていたので。

 本の杜5は2014年3月9日に川崎市産業振興会館にて開催とのことだけれど、次回は参加するのかどうかはじっくり考えてから決めたい。
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by suikageiju | 2013-09-15 23:58 | テキレボ・本の杜 | Trackback | Comments(0)
本の杜4
 ここに読まれなかった小説がある。正確には、多くの人が最後まで読まなかった小説である。幸いにもこの小説は電子書籍なので、購入した読者が小説全体の何%まで読んだのかを電子書籍販売サイトがすべて把握している。そしてインターネット上の「日記」や「さえずり」でどのような発言をした読者がこの小説を何%読んだのかも統計でまとめられている。
 その統計によれば「日記」や「さえずり」でこの小説の題名とともに「殺」「死」といった単語を使った読者の平均値は5.8%で中央値にいたっては3.5%。そしてそういった単語を使わなかった読者の平均値は86.3%、中央値93.0%だった。
 2022年10月25日、電子書籍作家アルベルト・フジタは情熱的な女性読者により殺害された。アルベルトが刊行した電子書籍は生涯で1冊だけで、その唯一の著作である『淡い膵臓』は大手電子書籍販売サイト「密林」で3万7052冊販売された。発売開始から3週間たってインターネットのあちこち、「日記」や「さえずり」で『淡い膵臓』の著者に対する殺害予告が出はじめ、インターネット上の社会現象のようになったけれど、警察は対処を怠った。
 そして2022年10月25日早朝、アルベルト・フジタこと本名藤田有平は渋谷道玄坂で高校時代の友人たちと一晩中飲んで酩酊したまま自宅近くの公園に帰ってきたところ、彼の読者である白丘みなみによって腹部を凶器で刺された。公園の滑り台の下で冷たくなっていた藤田有平は第一発見者でもある白丘みなみの通報により救急車で搬送され病院で死亡が確認された。死因は出血多量による多臓器不全だった。
 公園で逮捕された白丘みなみ(23歳)は犯行の3日前に『淡い膵臓』を「密林」にてクレジットカード一括払いで購入したことが警察の調査で分かっている。そして北沢警察署の捜査に協力した大手電子書籍販売サイト「密林」は彼女がその『淡い膵臓』を1%も読んでいないというデータを警察に提出した。0.5%、これが白丘みなみによる『淡い膵臓』の読書量であった。その事件を担当することになった北沢警察署の刑事はそのデータを受け取ってとまどった。『淡い膵臓』をほとんど読んでいるのであれば彼女がその作者である藤田有平を殺害した動機はなんとなく推測できるけれど、1%も読んでいない本の作者を殺害した容疑者の動機なんてこれっぽっちも推測できないからだ。事実、彼女は藤田有平殺害の動機について「彼がアルベルト・フジタだからです」と証言したきり口を閉ざした。黙秘権の行使である。(牟礼鯨、『淡い膵臓』より)

 西瓜鯨油社は9月15日(日)に大田区産業プラザPiO、2階小展示ホールで開催される文章/文芸作品オンリー同人誌即売会本の杜4に参加する。
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【配置場所】
 D-08

【頒布物】
・『昔鯨類』(58頁)、牟礼鯨、本州初
 詩歌でもなく、物語でもなく、反吐の出る言葉を束ねた本。
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・『オルカ』(108頁)、牟礼鯨、東京初
 孤独な惑星における最後の少女、オルカ。彼女を守るは三百の去勢旅団。性交を望むは三億の残存人類。謎かけに答えられれば性交。答えられなければ無惨な死。欺き合い騙し合い殺し合いながら、男たちは誇り高き戦死を遂げる、人類史を明日へと繋ぐため。
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・『flugas filozof'』(賢者は飛ぶ、128頁)、牟礼鯨
 9篇の卑猥短篇集。かつて、ミソジニー中毒文学と呼ばれたジャンルに属する詩的短篇群。
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・『文学フリマ非公式ガイドブック』第二版と第三版、委託
 第一版を第十四回文学フリマで146部売り上げ、総入替された第二版は第十五回文学フリマで157部売り上げた非公式ガイドブック。その第二版とまた全て入替えた第三版。7人の編集委員が文学フリマで売られているおもしろい創作文芸誌を真剣に選出した素人と玄人のための創作文芸えらび指南書。佐藤さん追悼頒布!



【備考】
・「西瓜鯨油社」は「すいかげいゆしゃ」、「牟礼鯨」は「むれ くじら」と読みます。
・とりあえず「西瓜鯨油社宣言」と「会社案内」をお読み下さい。
・事前に質問などがございましたら「murekujira◎gmail.com」(◎→@)やコメントまで。
・小便もしくは尿意に対する強迫観念があるのでよくトイレに行きます。鯨不在の場合は待っていてください。もしくはAmazon Kindleストアでショッピングして待っていて下さい。
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by suikageiju | 2013-09-13 21:11 | テキレボ・本の杜 | Trackback | Comments(0)
エス和新辞典
 大阪、中崎町にある書肆アラビクで石黒修編著の『エス和新辞典』(Moderna vortaro esperanto-japana、河野成光館、昭和13年再版)を見つけて300円で購入した。定価は1円50銭とのこと。アラビクの森内さんはかつて高名なエスペランティストにエスペラントの手解きを受けていたらしい。
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 この辞典には単語や用法はもちろん、文法やエスペラント史、通信便覧、参考書目が載っており、これ1冊持っていれば万国大会(世界エスペラント大会)にも参加できるくらいに充実した内容になっている。面白いのは、仮名でなんとかエスペラントの発音を表現しようとしていることだ。例えば子音は小文字で書いてあり、「R」は片仮名のラ行、「L」は平仮名のら行で表現されている。
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 この辞典が国際補助語エスペラントの学習に役立つのは勿論だが、平成生まれのエスペランティストにとっては昭和初期の日本語あるいは当時の日本人の語彙を知るのにも役立つ。たとえば「metano」(メタン)の訳語が「沼気」だったり、「frosto」(厳寒)の訳語に「冱寒」があったり、「perversa」(邪悪な)が「邪曲な、敗徳の」であったり。または歴史的なことでは「dancigo」(ダンチッヒ自由市)が主な国々として挙がっていて読みあきない。
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 特に巻末のAldonoj(増補)には言語委員会が選定した公用語が載っているのだが、なぜこんなものを載せたのだろうという単語も収録されている。例えば「agao」(トルコの将軍)、「aroki」(城形の駒で守る)、「oologio」(卵学)と別の単語による複合などで造語できる単語も含まれていて、ザメンホフの死後、戦間期エスペラント界の混乱をうかがえる。また「samurajo」(侍)といった歴史的単語もこの時期に公用語に含まれた。この辞典はエスペラント作文の際、意味の際どい単語を使うときに活用できるだろう。
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by suikageiju | 2013-09-08 02:04 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
ヤシャル・ケマルがゲジ公園について書いた
Yaşar Kemal, Gezi Parkı üzerine yazdıEdebiyat Haber(トルコ語、文学情報サイト)からの意訳

ヤシャル・ケマルはLa Repubblica紙に、ゲジ公園ではじまったことと全トルコに広まった反抗について書いた。
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「いつも私が声に出して支持しているように世界はひとつの文化庭園である。そこで数千もの花が育ち、全ての花にそれぞれの色と香りがある。私たちの世界はこの千種類もの花々であって、とても美しい。文化はこれらの花ととともに更に美しくなる。しかし一つも花が無いのだとすると、その時には色も香りも世界で果ててしまう。

文化の消滅と同時に、私たちの人間性もまた消滅するのだ。しかし知られる必要がある、そのときに社会の健全さ、能力と正義といったものの耐久力が明らかになるのだと。もし弾圧に遭ったとしたら、そのときは(私たちは)同情心を失い、弱体化して創造性を失うだろう。

人種差別も重篤な病である。財産を失うと憎悪の種子が人々の心の中で育まれ人種差別が生まれる。

そして表現の自由と民主主義に対してつくられた憎悪は、私たちの世代の悲惨な事件のために、大きな役割を演じていて決して許容できない。今日私たちに必要なのは民主主義体制であり、常に非人間的な圧迫とともにあってはならない。

ほんとうの民主主義の秩序を据える必要がある。なぜなら民主主義は必要なものだからで、それが均衡のための要素だからだ。体制もすべての人自身の名誉のもので、そして主要な基本的人権を保護しなければならない。私たちの自尊心、私たちのパンと豊かな私たちの文化を取り戻すことが私たちには急務だ。みな団結し、調和のとれた民主主義のために手と手をとりあって私たちの心、私たちの知性を高めていこう。」

2013年6月5日
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by suikageiju | 2013-09-03 21:31 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
死ぬまで私はノーベル賞候補者のままだろう
Hürriyet紙2006年12月15日からの意訳

作家ヤシャル・ケマル(Yaşar Kemal)は自身がノーベル文学賞候補者になった「最初のトルコ人」であることを明らかにし「1973年からノーベル賞候補者となった。死ぬまで候補者のままだろう」と言った。講演の最後の方で自身に向けて「何のために書くのか」と問いかけ声に出したヤシャル・ケマル、「長年にわたり書かないよう努めた、しかしできなかった。まだ書いている」と話した。
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ヤシャル・ケマルはカドゥキョイ地区のジャッデボスタン文化センターで企画された本祭りの開会式に妻のアイシェ・ババンとともに「名誉賓客」として参加した。
ヤシャル・ケマルは、本や本の著者は以前はもっと興味を示されていたと注意を引き「くだらない社会でわれわれは生きている、そんななか、この社会にいる作家たちの一人として本当に残念に思っている。私は四十冊の本を書いた、四十冊がこの国に何をもたらしたのかはとてもじゃないが分からない」と話した。

ムスタファ・ケマルはそのままだ
ヤシャル・ケマルは講演が終了した後で、聴衆のうちから3人だけに自身への質問の許可を与えた。
「オルハン・パムクが獲得したノーベル文学賞は政治的なものですか、違いますか」と質問されたヤシャル・ケマルは笑いながら「この質問は私にしちゃだめだよ。私はノーベル文学賞候補になった『最初のトルコ人』だ。1973年からずっと候補者で、死ぬまで候補者のままだろう。彼のためにも私にはその質問をしてはならない」と言った。
ヤシャル・ケマルは「政治的反動は私たちを降伏させるだろうか?」といった形式の質問に「私はそう考えていない。何をしてきてもムスタファ・ケマルはそのままだ。最後までそのままだ」というふうに返事をした。
ヤシャル・ケマルが「私は嘘は言わないよ」と口を開いてから出た言葉は次のように進んだ。「もう一度、社会に出るならトラクター運転手になったろうね。なぜなら私は若い頃にトラクター運転手をやっていて人生でもっとも幸福な時代はその頃だったからだ」
シュメール学者のMuazzez İlmiye Çığも参加した開会式でカドゥキョイ地区長Selami Öztürkはヤシャル・ケマルに金属の盾を贈った。
Öztürk地区長は盾を授与する際に「結婚式も私は惜しまないだろう」と言ってヤシャル・ケマルの妻アイシェ・ババンを来客たちに紹介した。ジャッデボスタン文化センターは12月17日まで続く本祭りでいろいろな種類の随筆やパネルや署名を用意する。
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by suikageiju | 2013-09-01 22:53 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
本の杜4に向けて
 9月15日、日曜日に開催される本の杜4に西瓜鯨油社は参加する。というのも暫定リストが既に上げられていてそこに西瓜鯨油社の名があったからだ。それにしても本の杜が開催日2週間前に暫定リスト公開とは驚かされる。本の杜2では開催日前日になるまでサークル参加できることを参加サークルに伝えないドッキリで場を盛り上げ、本の杜3ではサークル参加者数よりも少ない一般参加者に珈琲をふるまって賑わいを演出した当イベントは第四回目の開催を迎えるにあたり大田区産業プラザPiOに舞台を移すと云う。もちろん会場は文学フリマ参加者が知っている1階大展示ホールではない。あの、2階小展示ホールである。もう本の杜はカフカの「城」ではなく天空の城なのだ。
 そんな架空の同人誌即売会、本の杜4のイベント内企画として「ホンノヤシロ」と「断片集」がある。

ホンノヤシロ:「本」を題材にしたBLアンソロジー。
断片集:原稿用紙十枚縛りの小説アンソロジー。

 断片集は前回の本の杜3でも企画された創作アンソロ企画で、前回は牟礼鯨も参加した。今回は前回よりも多くの作家が参加しているようだ。断片集は今回も本の杜の目玉となるだろう。もちろん『ホンノヤシロ』についても、どこの主催が腐女子どもの標的になるのか、楽しみでしょうがない。あとは少年憧結社猫も忘れてはならない。
 西瓜鯨油社は福岡ポエイチで出した『昔鯨類』と大阪と幕張で出した『オルカ』を猪瀬都政下ではじめて頒布する。
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by suikageiju | 2013-09-01 13:49 | テキレボ・本の杜 | Trackback | Comments(0)